鉄道技術

2023年2月 5日 (日)

自動空気ブレーキと制御弁 ⑪ A動作弁(その2)

「自動空気ブレーキと制御弁」 第11回は、国産の代表的な制御弁である「A動作弁」の2回目。A動作弁の種類と作用について、解説します。

 

A動作弁

【種類】

構造で述べたように、動作弁取付座の空気通路に取り付ける絞り栓と、補助空気溜・附加空気溜の容量を変更することで、305 mmと355 mmの2種類のブレーキシリンダに対応できる。そのため細分形式はない。

昭和13年4月より、非常ブレーキ後に弛めが可能になるまでの時間を短縮する(約12秒 → 3~5秒)改良が行われたが ※26、それに伴う形式の変更は行われていない。

【作用】 ※26

最初の込め

各空気溜やブレーキシリンダに圧力空気がない時に、ブレーキ管に圧力空気を込めた時に取る位置で、各空気溜に圧力空気を込める。

釣合ピストン・非常ピストンはそれぞれのピストン室にブレーキ管からの圧力を受けて、滑り弁室側に押し込まれ、圧力空気は補助空気溜・附加空気溜・急動空気溜に込められる。その時、附加空気溜へ送られる空気の一部は高圧弁を閉塞し、附加空気溜への空気がブレーキシリンダに漏れ込むのを防ぐ。

各空気溜が所定の圧力に込められると、逆止弁及び球弁はその座に落ち着いて状態を維持する。

又込め及び弛め

一度減圧したブレーキ管に圧力空気を込める時に取る位置で、各空気溜に圧力空気を込めると共に、釣合度合弁及び釣合滑り弁によりブレーキシリンダの圧力空気を排出して、ブレーキを弛める。

基本的には最初の込めと同じ作用を行うが、附加空気溜の圧力空気も補助空気溜に込められ、込め時間の短縮を図っている(急又込め)

また急動空気溜への空気通路を絞って、補助空気溜と附加空気溜を優先的に込めるようになっている。

急ブレーキ位置

ブレーキ管圧力を比較的緩やかに減圧した時に取る位置で、ブレーキ管の局部減圧を行って後部車両へのブレーキ指令の伝達を促進する(急ブレーキ作用)と共に、常用ブレーキを掛ける。

釣合部では、

1. ブレーキ管の減圧によりピストン室の圧力が減少すると、ピストンはまず釣合ピストン棒と釣合度合弁との隙間(3 mm)だけ移動し、込め溝を塞いで補助空気溜からブレーキ管へ圧力空気が逆流するのを防ぎ、ブレーキ管の減圧を確実にする。

2. その後釣合ピストンは、釣合滑り弁と釣合度合弁を伴って更に動き、度合弁バネに突き当たって止まる。

3. この時急動逆止弁の背面は、釣合滑り弁・釣合度合弁によってブレーキシリンダに通じるので、ブレーキ管の圧力空気は逆止弁を開いて、一部がブレーキシリンダに流入する。これによりブレーキ管の局部減圧を行う。

また釣合滑り弁の通路が開いて、補助空気溜の圧力空気がブレーキシリンダに送られる。

非常部においては、

1. ピストン室の圧力が減少するので、滑り弁室の圧力により球弁は座に落ち着き、ピストンは非常度合弁を伴って、非常度合弁バネに突き当たるまで移動する。

2. この時非常滑り弁と非常度合弁の穴が合致して、ピストン背面及び急動空気溜の圧力空気は徐々に大気に放出される。そのため非常ピストンは非常度合弁バネに突き当たった位置で止まったままとなる。

3. この時非常滑り弁は動かないので、非常ブレーキ作用は行われない。

全ブレーキ位置

急ブレーキ位置と比べてブレーキ管の減圧が早い場合に取る位置で、常用ブレーキを掛けるが、急ブレーキ作用は行わない。

釣合部では、

1. ピストン両面の圧力差が大きいため、ピストンは度合弁バネを圧縮し、急ブレーキの位置を通り越して極端まで動く。

2. この時逆止弁背面への通路は釣合滑り弁で塞がれるため、ブレーキ管の圧力空気はブレーキシリンダへ流入しない。

3. また急ブレーキ位置と同じく釣合滑り弁の通路が開いて、補助空気溜の圧力空気がブレーキシリンダに送られる。

非常部の動きは、急ブレーキ位置の場合と変わらない。

ブレーキ重なり位置

ブレーキ管の減圧を止めた時に取る位置で、ブレーキシリンダ圧力をその時の状態に維持する。

釣合部では、

1. ブレーキ管の減圧が止まってその圧力が一定になっても、補助空気溜の圧力空気はブレーキシリンダに流入し続ける。

2. その結果、釣合滑り弁室圧力(補助空気溜圧力)がピストン室圧力(ブレーキ管圧力)よりも幾分低くなると、釣合ピストンは釣合度合弁を伴って、釣合滑り弁に当たるところまで戻る。

3. この時、各空気通路は閉鎖されて、ブレーキシリンダ圧力は一定に保たれる。

4. また補助空気溜から釣合滑り弁抵抗溝への通路が開き、滑り弁の摺動抵抗を減らして、次の弛め作用を確実にするよう準備される。

なお補助空気溜とブレーキシリンダとの容積比は凡そ3.25対1に設計されている。このため最初490 kPa(5.0kg/cm2に込められたブレーキ管圧力を137 kPa(1.4kg/cm2減圧すると、補助空気溜圧及びブレーキシリンダ圧力は353 kPa(3.6 kgf/cm2となって釣り合う。これを最大減圧量と言い、それ以上の減圧は無効となる。

非常部においては、ブレーキ位置では非常ピストン背面(急動空気溜)の圧力空気が徐々に排出されているが、ブレーキ管の減圧が止まって一定になると、ピストン背面の圧力の方が低くなって、ピストンは滑り弁室側に押し込まれる。これにより急動空気溜圧力は、その時のブレーキ管圧力と釣り合う。

弛め重なり位置

弛めの途中でブレーキ管の増圧を止めた時に取る位置で、各空気溜への圧力空気の込めを停止すると共に、ブレーキシリンダ圧力をその時の状態に維持する。

釣合部では、

1. ブレーキ管の増圧が続く内は弛め位置を取るが、増圧が止まって圧力が一定になっても、附加空気溜の圧力空気は補助空気溜に流入し続ける。

2. その結果、釣合滑り弁室圧力(補助空気溜圧力)が釣合ピストン室圧力(ブレーキ管圧力)よりも幾分高くなると、釣合ピストンは釣合度合弁を伴ってピストン室側へ移動し、釣合滑り弁に当たって止まり、各空気通路を閉鎖する。

非常部においては、ブレーキ管の増圧に伴い非常ピストンは押し込まれて急動空気溜を込めるが、ブレーキ管と急動空気溜の圧力が釣り合った時点で非常ピストンの両面の圧力が釣り合い、球弁が座に落ち着いて、急動空気溜への込めも止まる。

弛め重なり位置において再びブレーキ管圧力が上昇すると、釣合部は再び弛め位置を取り、上昇が止まればまた弛め重なり位置を取る。このようにして、附加空気溜の圧力とブレーキ管圧力が釣り合うまでは、段階的にブレーキを弛めることができる(階段弛め)

非常ブレーキ位置

ブレーキ弁や車掌弁からの非常ブレーキ指令、ブレーキ管の破損や列車の分離などで、常用ブレーキよりも早い速度でブレーキ管の減圧が行われた時に取る位置。

釣合部は全ブレーキ位置と全く同じ作用を行う。但しピストンの動きは、常用ブレーキよりも早く行われる。

非常部では

1. まず非常ピストンが非常度合弁を伴って動き、常用ブレーキ位置を取るため、急動空気溜の圧力空気が排出される。

2. この時ブレーキ管圧力の降下の方が早いので、ピストンの非常滑り弁側の圧力が高まり、ピストンは非常度合弁バネを押し込んで全ブレーキの場合よりわずかに多く移動する。

3. それにより非常度合弁は非常滑り弁の穴を開いて、急動空気溜の圧力空気を急動部の逃しピストン下部に送る。その圧力空気により逃しピストンは押し上げられ、逃し弁を開くので、ブレーキ管の圧力空気は急動部の吐出穴から大気中に放出され、ブレーキ管を急激に減圧する(急動作用)

4. ブレーキ管の急激な減圧は非常部に伝わり、非常ピストンは非常度合弁バネを大きく押し込んで極端まで移動し、非常度合弁及び非常滑り弁に非常位置を取らせる。

5. すると非常滑り弁によって高圧弁背面の圧力空気が大気に放出されるので、高圧弁下部に作用する附加空気溜圧力はバネに打ち勝って高圧弁を開き、附加空気溜の圧力空気はブレーキシリンダに送られる。

6. この時、補助空気溜と附加空気溜の圧力空気が合わさって、ブレーキシリンダ圧力は約441 kPa (5 kgf/cm2まで上昇する。

更に各弁の動作を確実にするために、並行して以下の作用が行われる。

・ 急動空気溜圧力が逃しピストンの下部に送られ、逃しピストンの開きを保つ。

・ 附加空気溜圧力が非常ピストンの背面に導かれ、ピストンの位置を保つと共に、ピストン背面の圧力がブレーキ管に漏れ込むのを防ぐ。

・ 同じく釣合ピストンの位置を保つと共に、ピストン背面の圧力がブレーキ管に漏れ込むのを防ぐ。

・ 逆止弁を弁座に付けて、ブレーキシリンダ圧力がブレーキ管に漏れ込むのを防ぐ。

逃しピストンに作用した空気はピストンにある穴及び逃し溝を通じて、約3~5秒で排出されるので、逃し弁バネにより逃しピストンと逃し弁は押し下げられて元の状態に戻り、非常ブレーキ後の弛めを可能にする。

(第12回へ続く)

2023年1月31日 (火)

自動空気ブレーキと制御弁 ⑩ A動作弁(その1)

「自動空気ブレーキと制御弁」 第10回よりは、国産の代表的な制御弁である「A動作弁」について、複数回に分けて解説します。

A動作弁

【概要・開発】 ※3・17

国産初の旅客車用制御弁で、1960年代以降の文献では「A制御弁」と呼ばれるが、本稿では原則として「A動作弁」に統一する。

鉄道省は自動空気ブレーキを導入するに当たり、客車用には1921年(大正10年)2月よりWH社のPM形(P三動弁)、1923年(大正12年)5月よりクンツェ・クノール社(ドイツ)の客車用P形三動弁、1924年(大正13年)にはWH社の電車用MN形(M-2-C三動弁)、更にWH社のU-5自在弁の試験を行ったが、いずれも採用にならなかった。

その結果、1927年(昭和2年)に至って鉄道省工作局が主幹となって日本の鉄道車両に適した三動弁を開発することになり、日本エヤーブレーキと三菱電機に設計を依頼し、日本エヤーブレーキの案を採用して1928年(昭和3年)8月に正式化されたのがA動作弁である。

A動作弁について解説した文献ではU自在弁を簡略化して(新たに)開発したとするものが多いが、後述するように、WH社のL三動弁(1907年開発)を元にU自在弁の一部機能を盛り込んで改良設計した可能性があり、純粋な国産の制御弁とは言い難いところがある。

鉄道省では、電車には1928年(昭和3年)7月より採用。客車には1929年(昭和4年)5月より取付けを始め1931年(昭和6年)7月までに完了した。気動車には1931年のキハニ36450形より採用。更に一部の大型貨車にも採用され、昭和の初期から30年代に至るまで、国鉄の旅客車はほぼ例外なくA動作弁を搭載していると言っても過言ではない状況であった。私鉄でも電車では1960年代まで、また一部では気動車や電気機関車にも採用された。

1965年(昭和40年)までに次世代の制御弁が開発されてからも、既存形式の増備に当たってはなおA動作弁が採用され続け、廃車発生品の流用ながら、結局は国鉄最後の新製形式キハ31・キハ32・キハ54に至るまでこの弁を採用した。

開発より100年近くになり、最新世代の制御弁や電気指令式ブレーキへの移行により、流石にその数を大幅に減らしているが、現在もなおJRの電車では103系(0番台)・113系・115系・415系、気動車ではキハ32・キハ54(0番台)、貨車ではレール輸送用のチキ5500・チキ6000、私鉄では小湊鐵道キハ200形(一部)などに残存している。

 

【構造】 ※1・4・7・26

ブレーキ管圧力と補助空気溜圧力の関係によってブレーキシリンダ圧力を制御する二圧式制御弁で、金属ピストンを使用した滑り弁式の制御弁である。非常ブレーキの制御を非常部として独立させたのが大きな特徴。材質は鋳鉄製で、重量は約27kg。

釣合ピストンがレール方向になるように取り付けられるのが元々であるが、新性能電車以降のブレーキ制御装置では90度回して枕木方向に取り付けられるようになった。これは、加減速による衝動によって釣合ピストンが無用な動きをしないようにするための対策であると思われる。

従来の三動弁と同じく補助空気溜・附加空気溜とブレーキシリンダが付属するほか、非常ブレーキ制御用の急動空気溜が追加された。

C1-brake-controller
新性能電車用C1ブレーキ制御装置に組み込まれたA動作弁。下の分解図に近い角度での撮影。クモハ101-902。2007年10月24日、鉄道博物館

A-control-valve_structure
A動作弁分解図 ※26

1.非常滑弁室蓋                 2.釣合弁室                          3.釣合滑弁ブシュ               4.釣合滑弁室蓋
5.高圧弁蓋                       6.逆止弁蓋                          7.非常シリンダ蓋                8.釣合シリンダ蓋
9.釣合シリンダ蓋詰座          10.釣合度合棒                      11.釣合度合バネ                 12.釣合ピストンブシュ
13.逃し弁                         14.逃し弁座                          15.逃しピストン蓋               16.逆止弁蓋
17.球弁                           18.非常度合バネ                   19.非常度合棒                   20.非常シリンダ蓋
21.非常シリンダ蓋詰座        22.非常ピストンブシュ            23.非常ピストン                 24.非常滑弁室
25.非常滑弁                     26.非常滑弁バネ                   27.非常滑弁室蓋               28.高圧弁座
29.高圧弁                        30.高圧弁バネ                      31.高圧弁室ブシュ              32.高圧弁蓋詰座
33.高圧弁蓋                     34.非常ピストン                    35.非常ピストン棒              36.非常度合弁
37.非常滑弁                     38.釣合ピストン                    39.釣合度合弁                  40.釣合滑弁


釣合部

釣合部は弁の中段に位置し、水平に置かれた釣合ピストンと、それによって駆動される釣合滑り弁・釣合度合弁・逆止弁・釣合度合バネなどによって構成され、弛め及び込め・急ブレーキ・全ブレーキ・ブレーキ重なり・弛め重なりと言う、常用ブレーキの機能を担う。また非常ブレーキの際は、非常部と共にブレーキ作用を行う。

1. 釣合ピストン

ピストンの両側にはブレーキ管と補助空気溜の圧力が作用し、それらの圧力差によって駆動される。そしてその動きにより釣合滑り弁及び釣合度合弁がそれぞれの弁座を摺動し、各種空気通路を連絡・遮断する。また釣合ピストンの下部には込め溝があり、ピストンによって開閉される。

2. 釣合滑り弁

釣合ピストンによって動かされ、以下の空気通路を構成する。
・ 附加空気溜 ~ 補助空気溜へ
・ ブレーキ管 ~ ブレーキシリンダ
補助空気溜 ~ ブレーキシリンダ
ブレーキシリンダ ~ 大気

また摺動面には抵抗穴という細長い凹みが設けられており、ブレーキ時にはこの中の空気を排出して弁座との間の摩擦抵抗を増し、ブレーキ管圧力の細かな変化により弁が無用に動くことを防ぐ。逆に弛めの際は抵抗穴に圧力空気を込めることで摩擦抵抗を減らし、弛め不良を防ぐ。

3. 釣合度合弁

釣合ピストンによって動かされ、以下の空気通路の連絡を行うほか、前記の釣合滑り弁抵抗穴への空気の給排を行う。
附加空気溜 ~ 補助空気溜
補助空気溜 ~ ブレーキシリンダ
ブレーキシリンダ ~ 大気
ブレーキ管 ~ ブレーキシリンダ

4. 逆止弁

急ブレーキ作用の際に、ブレーキ管圧力空気の一部をブレーキシリンダに込める。

5. 度合弁バネ

急ブレーキ作用と全ブレーキ作用の区別を行うと共に、全ブレーキや非常ブレーキの際に、釣合ピストンが釣合シリンダ蓋詰座に突き当たる際の緩衝器となる。

非常部

非常部は弁の上部にあり、釣合部と直交する形に設けられている。水平に置かれた非常ピストンと、それによって駆動される非常滑り弁・非常度合弁・球弁・非常度合弁バネなどによって構成される。また釣合部の横に、直交するように高圧弁を備える。

1. 非常ピストン

両面にはブレーキ管と急動空気溜の圧力が作用し、その圧力差でピストンが駆動される。常用ブレーキの時は非常度合弁バネに当たるまで、非常ブレーキの時は大きな圧力差により非常度合バネを圧縮して極端まで動き、常用ブレーキと非常ブレーキの区別を行う。

2. 非常滑り弁

非常ブレーキの時以外は込め位置にあり、急動空気溜と滑り弁室を連絡すると共に、附加空気溜の圧力空気を高圧弁の背後に作用させて、附加空気溜とブレーキシリンダとの連絡を遮断している。非常ブレーキの時は、次の連絡を行う。
・ 急動空気溜 ~ 逃しピストン室
・ 高圧弁背面 ~ 大気
・ 附加空気溜 ~ 非常滑り弁室

3. 非常度合弁

常用ブレーキの時は急動空気溜の空気を大気に排出してピストン両面の圧力差を小さくし、非常ピストンが非常位置まで行かないように阻止する。非常ブレーキの時は非常滑り弁が動き出す前に、急動空気溜の空気を逃しピストンに送る。

4. 非常度合弁バネ

常用ブレーキの時に、非常ピストンが非常位置まで移動しないようにする。

5. 球弁

ブレーキ管減圧の際に急動空気溜の空気が逆流しないようにする逆止弁である。

6. 高圧弁

非常滑り弁によってこの弁の背面の空気が排気されると、附加空気溜の圧力空気によって押し上げられ、附加空気溜とブレーキシリンダを連絡する。

急動部

弁の下部にあって、縦型に設けられた逃しピストン・逃し弁などから構成される。非常ブレーキの時のみ、急動空気溜からの圧力空気により作用して、ブレーキ管の圧力空気を大気に排出する。

 

L三動弁とは外観や基本的な弁の配置がよく似ており、A動作弁を開発する際の元となった可能性が大きい。但し以下のような相違はある。 ※1

1. L三動弁は従来の三動弁と同様、対応するブレーキシリンダのサイズ別に設計されていたが、A動作弁ではU自在弁にならって取付座の空気通路に絞り栓を設けることで、複数のサイズのブレーキシリンダに同一の動作弁で対応できる。(L三動弁では、L-1-B: 8・10 in用、L-2-A: 12・14 in用、L-3: 16・18 in用)

2. A動作弁では、釣合滑り弁に抵抗穴が設けられ、滑り弁の意図しない動きを抑制する対策が行われた。

3. L三動弁では非常ブレーキ関係の弁の駆動も補助空気溜圧力によって行うが、A動作弁では独立した急動空気溜の圧力空気で行う。

4. 常用ブレーキと非常ブレーキとの区別は、L三動弁では常用ブレーキと同じ釣合部で行うのに対し、A動作弁では独立した非常部で行う。

5. 弁上部の非常ピストンは、L三動弁ではバイパスピストンとなっており、非常ブレーキ時に補助空気溜圧力により駆動されて、附加空気溜の圧力空気をブレーキシリンダに送るのみの機能となっている。一方A動作弁では非常部として、非常ブレーキの制御を担う。

6. 弁下部の逃しピストンは、L三動弁では非常ピストンと呼ばれる。非常ブレーキ時に補助空気溜の圧力で押し下げられて非常弁を開き、ブレーキ管の圧力空気をブレーキシリンダに流入させて急動作用を行う。ブレーキ管圧力はブレーキシリンダ圧力と釣り合うまでしか減圧できないので、大気に排出して圧力ゼロまで減圧できるA動作弁と比べて、急動作用としては不十分である。

7. L三動弁では釣合部に安全弁が設けられており、常用ブレーキ時にはブレーキシリンダと連絡して、その圧力を制限する。

L2a-triple-valve

L三動弁の断面図 ※1

(続く)

2023年1月 4日 (水)

自動空気ブレーキと制御弁 ⑨ U自在弁

「自動空気ブレーキと制御弁」 第9回は、日本では電車に使用された「U自在弁」について解説します。

U自在弁

【概要・開発】

WH社が1913年(大正2年)に販売を開始した、旅客車用の制御弁。「自在弁」は「Universal Valve」の翻訳であるが、「万能弁」と訳した資料もある。

先に1907年(明治40年)に開発されたL三動弁は、従来の三動弁から非常部を独立させ、伝達促進・急又込め・階段弛め・非常急動・非常高圧など、一通りの機能を備えた一応の完成形であったが、それを更に発展させた位置づけで、10両(以上)編成に対応する多様な特徴を有していた。

日本ではずっと遅れて、1927年9月に鉄道省が電車の長編成化に向けて採用を検討する試験を行ったが ※17、精緻な構造故に高価で、しかも高度な保守技術を要求されたため、当時の鉄道省の要求水準・技術水準に照らして採用に至らず、国産のA動作弁の開発につながった。

例外的に、関西で高速・長編成を指向した新京阪鉄道・参宮急行電鉄・大阪電気軌道・阪和電気鉄道・大阪市電気局のみが、三菱電機のライセンス生産品を採用した。

後に、保守に手を焼いてA動作弁を使ったAMAなどに改造された車両が少なくなかった中、大阪市では1951年(昭和26年)製作の吊掛車600形まで、この制御弁を採用した。 ※24

【構造・作用】

構造や作用について解説した資料がなく、詳細は不明であるが、白井 昭氏によると概要は以下の通りである。 ※3

特長としては
 ・迅速な指令の伝達
 ・
高感度で安定
 ・
常用ブレーキ後でも確実に非常制動が作用
 ・
常用・非常で異なるブレーキシリンダ圧力を設定
 ・
迅速・均等かつ確実な又込め
 ・
込め不足の保護
 ・
確実な弛め
 ・
非常ブレーキ後の迅速な弛め
などがあり、高い感度・機能とその均等性・安定性を実現するために、常用・非常・伝達促進(急ブレーキ)の各部分を独立させ、三動弁の機構の他に高圧弁・保護弁・弛め弁などを備えている。

具体的には管座の片側に釣合部、もう一方に非常部と急動部を取り付けてあり、釣合部には弛め弁・E6安全弁・締切弁・一段弛め蓋などが、非常部には急動弁・高圧弁・保護弁・パイロット弁などが付属している。また形式によっては、直通ブレーキ部が付属する。

U5-universal-valve_01 U5-universal-valve_02 
大阪市電気局105号(保存車)に搭載のU-5自在弁。昭和6年9月、三菱電機株式會社製。
2007年11月10日、大阪市交通局緑木検車場にて一般公開時に撮影。

外観を見る限り、金属ピストンと滑り弁を使用した二圧式の制御弁で、写真左側(安全弁が見える側)が釣合部と思われる。

【細分形式】

開発当初はU-1・U-2・U-4・U-5や、直通ブレーキ付のU-4-A・U-5-A、電磁ブレーキ付のUE-5などがあり、1915年にはU-12・U-12-A・UE-12などが登場した。更に1940年頃にはU-12-BDが開発され、主に北米大陸の鉄道で多数が使用された。

なお従来の三動弁ではブレーキシリンダのサイズ(内径)別に複数の型式が設計されていたが、U弁では絞りを変更することで異なるサイズのブレーキシリンダに対応できるようになった。この考え方は、国産のA動作弁にも引き継がれている。

【適用ブレーキ方式・車種】

AMU

電車用のブレーキ装置で、国内では以下の事業者・形式に使用された。
 ・
新京阪鉄道             P-6形
 ・
参宮急行電鉄          2200系
 ・
大阪電気軌道          デボ1400形
 ・
阪和電気鉄道          モタ300形、モヨ100形など
 ・
大阪市電気局          100形~600形

いずれも保守の困難性や部品入手上の問題から、1950年代までにはA動作弁を使用したAMA方式への更新、電磁直通ブレーキへの改造(大阪市)が行われ ※24、消滅した。

なお大阪市交通局105号は静態保存車となっており、制御弁もU-5に復元されている。現在動態保存化へ向けて整備中との情報もあり ※25、実現すればAMUブレーキの復活となる。

 

2023年1月 1日 (日)

近所の神社に初詣に行った帰りに撮った、『初詣』ヘッドマーク掲出の阪急電車

2023年1月1日

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2022年12月25日 (日)

自動空気ブレーキと制御弁 ⑧ 電車用 J三動弁

「自動空気ブレーキと制御弁」 第8回は、主に電車に使用された「J三動弁」について解説します。

三動弁 (J triple valve)

【概要・開発】

ゼネラル・エレクトリック社(General Electric Company, GE)が開発したEMU(総括制御電車)用の制御弁。開発時期は不明だが、遅くとも1913年(大正2年)までには開発されていたようである。

機能的にはWH社のM三動弁にほぼ匹敵するが、技術的には劣っていて、AMM程には普及せず、また淘汰されるのも早かった ※3

日本に導入されたのは、白井昭氏によると1914年(大正3年)の京浜線用モハ1形からとされているが、日本国有鉄道百年史及び国鉄電車発達史の記述によれば、同系列には自動兼直通式のAMMが採用された模様で、J三動弁は大正14年度(1925年度)新製電車から採用されたと読み取れる。

前記の通り、当時の鉄道省は技術的に不満であったようで、昭和5年度(1930年度)以降は国産のA動作弁に置き換えられた。しかし短期間とは言え国鉄電車に全面的にJ三動弁が採用されたのは、同じくGEからの電機品(主制御器・主電動機など)の輸入国産化をスムーズに進めるための交換条件であったのかも知れない。

【構造】

ブレーキ管圧力と補助空気溜圧力の関係によってブレーキシリンダ圧力を制御する二圧式制御弁である。ブレーキシリンダ蓋の下部に3本のボルトで取り付けられ、上部に釣合ピストン、下部にはそれと直交する方向に非常ピストンと非常逆止弁、更にその下に制動管逆止弁を持つ。

J5a-triple-valve  ※20

1. 取付座        2. 非常ピストン室           3. 釣合ピストン室蓋
4. 釣合ピストン室   5. 込メ溝プラグ             6. 非常逆止弁室
7. 制動管逆止弁室

【種類】

組み合わせるブレーキシリンダの大きさにより複数の種類があったようであるが、鉄道省ではJ5Aを採用した ※20

【作用】 ※20

ブレーキ管の増減圧に応じて以下の4つの作用を行う。

  • 弛め及び込め
    ブレーキ管内の圧力が上昇すると、釣合ピストンは滑り弁を伴って移動し、ブレーキ管の圧力空気を補助空気溜及び附加空気溜へ込める。
    ブレーキ後にブレーキ管を増圧した時は、釣合ピストンの移動によって、ブレーキ管及び附加空気溜の圧力空気を補助空気溜に込める。同時にブレーキシリンダの圧力空気が排気される。
  • 急制動
    ブレーキ管の減圧が比較的小さい時に取る位置で、釣合ピストンは滑り弁と度合弁を伴って移動し、ブレーキ管及び補助空気溜からブレーキシリンダへの通路を開く。それによりブレーキ管の局部減圧を行う(急ブレーキ作用)と共に、ブレーキシリンダへ圧力空気を込める。
  • 全制動
    ブレーキ管の減圧が大きい時に取る位置で、釣合ピストンは滑り弁と度合弁を伴って急制動位置より更に移動し、ブレーキ管及び補助空気溜からブレーキシリンダへの通路を開く。それによりブレーキ管の局部減圧を行う(急ブレーキ作用)と共に、滑り弁が全開となるため、補助空気溜の圧力空気は十分にブレーキシリンダへ込められる。
  • 制動重なり
    ブレーキ管の減圧が終了し、弁内の滑弁室の圧力がブレーキ管より少し低くなると、釣合ピストンは度合弁を伴って少し戻る。それにより補助空気溜からブレーキシリンダへの空気通路が閉塞され、ブレーキシリンダ圧力は一定に保たれる。
  • 弛め重なり
    自動ブレーキ弁を弛め位置に置いてブレーキ管圧力を増圧し、次に重なり位置に移すと、三動弁は弛め重なり位置を取る。ブレーキ管圧力が補助空気溜圧力より高くなると、釣合ピストンは滑り弁及び度合弁を伴って戻り、弛め込め作用が行われる。その後ブレーキ弁を重なり位置に移し、補助空気溜圧力がブレーキ管圧力より少し高くなると、釣合ピストンは度合弁を伴って移動する。この時度合弁は補助空気溜と附加空気溜を結ぶ通路、及びブレーキシリンダの排気通路を塞ぐことで、ブレーキシリンダ圧力空気の
    一部は排出され、残りはそのまま保たれる。
  • 非常制動
    ブレーキ管の減圧が急激な場合、釣合ピストンは度合バネを圧縮して極端にまで移動する。それにより附加空気溜の圧力空気はブレーキシリンダに流入し、同時にブレーキ管圧力空気も、非常逆止弁を開いて一部がブレーキシリンダに流入する。直後に非常ピストンの両面の圧力が釣り合うため、非常ピストンと非常逆止弁はブレーキ管とブレーキシリンダの連絡を遮断する。

【適用ブレーキ方式・車種】

AVR

GE社のJ三動弁付自動空気ブレーキ装置の呼称で、鉄道省ではWH式にAMJとも呼んだ(国際的には通用しない) P三動弁と同じくF形ブレーキシリンダと組み合わせて使用された。

比較的初期に吐出電磁弁を付加して電磁自動空気ブレーキ(呼称はJE)化されたが、1927年(昭和2年)にはWH社のU自在弁との比較試験が行われ、更に1930年(昭和5年)からは国産のA動作弁に切り替えられた。その後急速にA動作弁への取り替えが行われ、淘汰された。

私鉄では南海電気鉄道が、1921年(大正10年)製作の電4形以降の木造車で、AMJ-Cを標準として採用していた。 ※21

なお少数ながら電気機関車でも使用されており、名鉄デキ600形がAMJである ※21。また岳南鉄道ED29(元豊川鉄道→国鉄)、ED32(元伊那鉄道→国鉄)もAMJとの記述 ※8 があるが、別資料 ※22 ではいずれもAMMとなっており、確証がない。

2022年10月10日 (月)

自動空気ブレーキと制御弁 ⑥ 機関車用14番分配弁

「自動空気ブレーキと制御弁」 第6回は、主に電機機関車とディーゼル機関車に使用された「14番分配弁」について解説します。

 

14番分配弁

【概要・開発】

6番分配弁を、両運転台用に小改良した機関車用制御弁。

電気機関車の実用化により両運転台の機関車が登場したが、その場合どちらの運転台からも同じブレーキ効果を得られるよう、分配弁を車両の中央付近に設ける必要がある。それにより運転台のブレーキ弁から分配弁までの配管が長くなったため、ブレーキ指令に時間が掛かり、また十分なブレーキシリンダ圧力が得られないなどの問題が生じた。

その問題を補償するために開発されたのが№14EL空気ブレーキ装置で、それに使用される分配弁が14番分配弁(№14 Distributing valve)である。№6ET用のK-6ブレーキ弁を小改良したK-14Aブレーキ弁と組み合わせて使用される。

1913年発行のアメリカの解説書には掲載されていないため、それ以降、日本に自動空気ブレーキが導入された1922年までの間にWH社で開発されたと考えられる。日本では1991年製造のEF66 133号機まで新製された。

【構造】

基本的な構造は6番分配弁と同じであるが、ブレーキ管から釣合部の滑り弁を通り制御弁弛め管に通じる通路が設けられ、また作用シリンダ通路を作用シリンダ蓋に回したところが6番分配弁と異なる。このため作用シリンダ蓋に突起が生じており、6番分配弁との外観的な識別点となっている。

また両運転台のため、弛め管と作用シリンダ管をどちらのブレーキ弁に接続するかを切り替える「切替弁」が付属する。切替弁は、第2運転室(後位側)にある切替コックからの圧力空気の有無によって作動する ※14

No14-distribuing-valve-kobe-701
神戸電鉄701号(← ED2001)の14番分配弁。2010年10月3日、鈴蘭台工場一般公開時に撮影

【作用】

基本的な作用も6番分配弁と同じであるが、常用ブレーキ作用において以下の違いがある ※14

  1. 作用シリンダ管が長く、その容積が大きいため、圧力空気室と作用空気室との容積比が当初設計(およそ5対1)と異なって来て、所定の作用シリンダ圧力(≒ブレーキシリンダ圧力)が得られない。そのため自動ブレーキ弁から、不足する空気量を作用シリンダ管に補給するようになっている。

  2. またブレーキ管圧力の一部を、釣合部滑り弁から度合弁通路を経て分配弁弛め管に流入させる。このように予め弛め管の圧力を高めておくのは、自動ブレーキ弁による常用ブレーキ後の弛め・保ち位置で作用シリンダ圧力が弛め管に流入して、ブレーキシリンダ圧力が低下するのを防ぐためである。

但しこれだけの改良では配管延長による性能低下を補償しきれなかったようで、宇田謙吉氏はご自身の体験として、『慣れれば同じとはいうものの、空走時間(運転士の操作からブレーキが効くまでのロス時間)が大きくなるのは恐ろしい。新しい車種に変わるとブレーキ性能は良くなるのが普通なのに、蒸機→電機だけは例外であった。』と書いておられる ※15

【細分形式】

高速化に伴う増圧ブレーキの装備に伴って、作用部に増圧ピストンと逆止弁・電磁弁からなる増圧装置を取り付けた「14番E制御弁乙」がある ※14

【適用ブレーキ方式・車種】

EL-14A

国鉄電気機関車の標準的ブレーキ装置であった。また私鉄においても、中型以上の箱形機を中心に多数採用された。電気式ディーゼル機関車では空気圧縮機を電動式としたため、EL-14Aを採用した(量産機ではDF50)

細分形式としては、以下のようなものがある。

EL-14AS

ブレーキ弁を脚台付きとし、ブレーキ管に非常ブレーキ伝達促進用のE吐出弁(急動弁)を取り付けるなど改良したもので、EF10(17号機以降)・EF56以降のほとんどの形式に採用された。EF81・EF66やED75700などでは、運転台環境改善のためブレーキ弁の脚台を廃止したが、形式はEL14ASのままであった。

なお重連対応形式では、更に元空気溜管の引き通し、釣合管の引き通し(単独ブレーキを次位機関車にも作用させる)、E1締切弁(重連機関車間で分離した場合、釣合管を遮断して次位機関車のブレーキ力喪失を防ぐ)などが追加されている。

EL-14AAS

EL-14ASを2車体用に変更したもので、EH10に採用された。各車体に分配弁を持ち、元空気溜管と釣合管、空気圧縮機同期回路を引き通している。上記重連対応EL-14ASの元となった。

EL14-AR

EL-14Aを回生ブレーキ対応にしたもので、EF11 1~3に採用。4号機とED61は、改良型のEL-14ARSとなった。なおEF16も回生ブレーキ付だが、電空連動を行わないEL-14ASであった。

DL-14A

EL-14Aの空気圧縮機をエンジン駆動に変更したもの。国鉄の量産機ではDD51とDD54に採用された。DD51の半重連型では元空気溜管を、全重連型では更に釣合管を引き通している。

2022年9月30日 (金)

自動空気ブレーキと制御弁 ⑤ 機関車用 6番分配弁

「自動空気ブレーキと制御弁」 第5回は、主に蒸気機関車に使用された「6番分配弁」について解説します。

※ 2022.10.3 適用ブレーキ方式・車種を加筆修正しました。

 

 

6番分配弁

【概要・開発】

WH社が機関車用に開発した三動弁で、日本語の「分配弁」は「Distributing Valve」の直訳である。1960年代頃から、日本では「6番制御弁」と呼ばれる。

直通空気ブレーキが実用化された当初、機関車には空気ブレーキが取り付けられていなかった。しかし列車の制動力を確保するため、すぐに炭水車に空気ブレーキが装備され、更に機関車本体にも空気ブレーキが付けられるようになった。

直通ブレーキから自動ブレーキに代わった後も、機関士が機関車のブレーキを独立に制御できるよう、直通ブレーキが併設されるようになった。これによりブレーキシステム全体の柔軟性と効率が大きく向上したが、必然的に部品点数が増え、構造が複雑になった。

そこで自動ブレーキと直通ブレーキの機能を併せ持ちつつも、機構を整理し部品点数を減らした新しい機関車用空気ブレーキ装置が、1905年に開発された。5番分配弁 (№5 Distributing Valve) を使用した №5ET 空気ブレーキ装置で、E は Engine (機関車)、T は Tender (炭水車) の略である。

№6 ET 空気ブレーキ装置は、№5 ET の経験を元に改良を行い、更に簡素化したもので、分配弁も改良された6番 (№6 Distributing Valve) になった。1913年発行の解説書に掲載されているので、1910年前後に開発されたと思われる ※1

日本には自動空気ブレーキの採用と共に導入され、蒸気機関車はもちろん、電気機関車やディーゼル機関車にも使用され、現在も動態保存の蒸気機関車で現役である。

 

【構造】

ピストンと滑り弁を使った弁を2組、上下に互い違いに積み重ねたような構造になっており、上が作用部、下が釣合部と呼ばれる。また作用空気室と圧力空気室を内蔵した二室空気溜と直結され、これは管取付座を兼ねている。圧力空気室は、一般の三動弁における補助空気溜に当たる。釣合部には安全弁が取り付けられている。

(外形図)

No6-distributing-valve-gaikei
 
※1

(構造図)

No6-distributing-valve-kouzou2  ※4
2. 作用部  3. 釣合部  4. 作用弁室蓋  6. 作用弁  7. 作用ピストン  8. 作用弁座  11. 奪取ピストン  15. 吐出弁  18. 釣合ピストン  20. 度合弁  21. 滑り弁  23. 度合弁バネ

No6-distributing-valve-cut-model
6番分配弁のカットモデル。2008年2月14日、梅小路蒸気機関車館

 

【作用】

自動ブレーキ

釣合部

三動弁の機能を持ち、ブレーキ管の増減圧に応じて以下の位置を取る。なお急ブレーキ作用(常用)、急動作用(非常)は持たず、単純三動弁に相当する。

込め位置
ブレーキ管を増圧したとき、釣合ピストンの作用で、ブレーキ管の圧力空気は込め溝を通って、圧力空気室をブレーキ管と同じ圧力になるまで込める。また作用シリンダと作用空気室は弛め管に通じるので、作用部は吐出位置を取り、ブレーキは弛む。

常用ブレーキ位置
ブレーキ管を減圧すると、釣合ピストンの作用で圧力空気室の圧力空気は作用シリンダと作用空気室に流入する。これにより作用部は供給位置を取り、ブレーキが掛かる。
なお作用空気室が設けられているのは、ブレーキシリンダに比べて作用シリンダの容積が小さいためで、そのままでは作用シリンダの圧力が不必要に高くなり、意図しない非常ブレーキが掛かるのを防ぐためである。

ブレーキ後重なり位置
ブレーキ管の減圧が終わり、圧力空気室の圧力がブレーキ管の圧力より少しでも低くなれば、釣合ピストンは圧力空気室から作用ピストン・作用空気室への通路を閉じ、作用シリンダの圧力が維持される。
これにより作用部も重なり位置を取り、ブレーキシリンダの圧力は維持される。

非常ブレーキ位置
ブレーキ管を急激に減圧すると、釣合ピストンは度合弁バネを圧縮して極端にまで移動し、圧力空気室の圧力空気を作用シリンダに送ると共に、作用空気室への通路を閉じる。このため作用シリンダの圧力は常用ブレーキよりも高くなり、作用部に全供給位置を取らせる。
なお安全弁により、作用シリンダの圧力を 5 kgf/c㎡に制限している。

作用部

釣合部が発生する作用シリンダ圧力と同じ圧力となるよう、元空気溜からブレーキシリンダに圧力空気を供給し、また排気する。すなわち中継弁であり、これによりブレーキシリンダの大きさや数に関わりなく、あらゆる形式の機関車に同一の分配弁を使用することができる。

吐出位置
作用シリンダに圧力空気がない時に取る位置で、作用ピストンはブレーキシリンダの圧力に押されて移動し、吐出口から排気されて、ブレーキが弛む。

緩供給位置
作用シリンダの圧力が上昇すると、作用ピストンは吐出口を塞ぐと共に供給口を開くため、元空気溜からの圧力空気がブレーキシリンダに供給されて、ブレーキが掛かる。

全供給位置
釣合部が非常ブレーキ位置を取ると、作用シリンダの圧力も高くなるため、作用ピストンは度合バネを圧縮して極端まで移動し、供給口を全開とする。このためブレーキシリンダへ迅速・多量に圧力空気を供給する。

重なり位置
作用シリンダとブレーキシリンダの圧力が同じになると、作用ピストンは度合バネにより押し戻され、供給口を閉じる。また吐出弁も閉じられているため、ブレーキシリンダ圧力は維持される。
なお漏れなどによりブレーキシリンダの圧力が低下した場合は、再び緩供給位置を取って圧力空気を補給する。

この弁は弛め重なり位置を持たないため、自動ブレーキ弁を運転位置に移すと釣合部は弛め位置、作用部は吐出位置を取り、そのままではブレーキが弛んでしまう。そのため自動ブレーキで階段弛めを行う場合は、自動ブレーキ弁による弛め管の開閉操作(運転位置は開、重なり・保ち・弛め位置は閉)により段階的にブレーキシリンダから排気することで行う。運転上は、弛め重なり位置を持つのと同様の操作ができたようだ。

またこの弁は急動作用を持たず、しかも機関車のブレーキ管は長く屈曲部も多いため、特に重連機関車の場合はブレーキ管の減圧が減衰して、列車の後部では非常ブレーキが掛からないという欠陥があった。
この事は第二次世界大戦の前から経験的に知られていたが、1956年に参宮線六軒駅で発生した列車衝突事故の原因調査で再確認された。これに対して電気機関車やディーゼル機関車では対策が行われたが、ET6ブレーキ装置ではそのままとされた ※12

単独ブレーキ

単独ブレーキ(直通ブレーキ機能)は、ブレーキ弁により直接ブレーキシリンダへ圧力空気を給排気するのではなく、作用シリンダへの給排気を行うことで、間接的にブレーキシリンダ圧力を制御する。

単独ブレーキにおいては、釣合部は特に影響されない。

単独ブレーキ位置
単独ブレーキ弁が緩制動または急制動の位置に置かれると、C-6減圧弁により 3.0 kgf/c㎡に調整された圧力空気が作用シリンダに直接送られる。また単独ブレーキ弁の回り弁により弛め管は閉じられ、作用シリンダ及び作用空気室の圧力空気は分配弁の排気口から排気されなくなる。すると作用シリンダの圧力により作用ピストンは供給位置を取り、ブレーキシリンダへ給気される。
単独ブレーキ弁を制動位置と重なり位置との間で移動させることで、段階的にブレーキシリンダ圧力を増し、最大 3.0 kgf/c㎡の圧力を得られる。

単独弛め位置
単独ブレーキ弁を弛め位置に移動すると、作用空気室と作用シリンダの圧力空気は単独ブレーキ弁を通じて排気され、作用ピストンは吐出位置を取る。分配弁の釣合ピストンが弛め位置にあり、自動ブレーキ弁が運転位置にあるとき、単独ブレーキ弁を運転位置にすることにより、機関車のブレーキを弛めることができる。
このとき作用シリンダおよび作用空気室の空気は分配弁の弛め管に流れ、さらに単独ブレーキ弁を通って弛め管に入り、自動ブレーキ弁を通って排気される。

自動ブレーキからの単独弛め
自動ブレーキによって掛けられた機関車のブレーキは、単独ブレーキ弁を弛め位置に移動することで弛めることができる。この時作用シリンダ内の圧力空気は、作用シリンダ管から単独ブレーキ弁を経て排気され、作用ピストンは吐出位置を取る。

 

【適用ブレーキ方式・車種】

ET-6:

鉄道省→国鉄では、№6 ET 空気ブレーキ装置を ET-6 と呼んだ。蒸機機関車の標準空気ブレーキ装置として、一部の小型入換用機関車を除くほとんどの形式で採用され、今も動態保存の蒸気機関車では現役で使用されている。

なお同和鉱業小坂鉄道のディーゼル機関車 DC1形・DD10形は、諸元表でブレーキ方式が ET-6 となっている ※8。蒸気機関車からの機器流用であろうか。

No6-distributing-valve-c515
三菱電機製の6番分配弁(D51 2)。作用部に三菱のマークと「6」の文字が陽刻されている。
2007年9月12日、交通科学博物館

No6-distributing-valve-d512
日本エヤーブレーキ製の6番分配弁(C51 5)。D51の物と、車体からの取付方法が異なる。
2007年10月24日、鉄道博物館

Et6-airbrake-system  ※4
1. 空気圧縮機  2. 空気圧縮機蒸気止弁  3. 空気圧縮機蒸気管  4. 空気圧縮機空気塵漉し  5. 空気圧力加減器  6. 空気圧力加減器高圧頭管  7. 空気圧力加減器低圧頭管  8. 操出管(冷やし管)  9. 第1元空気溜 10. 第1元空気溜排水コック  11. 元空気溜連結管(冷やし管)  12. 第2元空気溜  13. 元空気溜管  14. 元空気溜管締切コック  15. ブレーキ弁脚台  16. 自動ブレーキ弁  17. 単独ブレーキ弁  18. 空気圧力計  19. ブレーキ管  20. 分配弁  21. 分配弁作用シリンダ管  22. 分配弁弛め管  23. 分配弁供給コック  24. ブレーキシリンダ管  25. ブレーキシリンダ管締切コック  26. 渦巻ちり取り  27. 無火機関車装置  28. ブレーキシリンダ圧力計管  29. ブレーキ管圧力計管  30. 釣合空気溜圧力計管  31. 元空気溜圧力計管  32. 機関車ブレーキシリンダ  33. ブレーキ管肘コック  34. ブレーキ管ホース及び連結器

EL-14B:

№14 EL空気ブレーキ装置(EL-14)は、№6 ETの空気圧縮機を電動式に変更した機関車用空気ブレーキ装置。両運転台用のEL-14Aには後述の14番分配弁が使用されるが、片運転台用のEL-14Bには6番分配弁が使用されている ※13

ブレーキ弁が1台だけあって、2番切替弁と切替コックを設けている。これらは重連運転の際に、本務機関車の作用シリンダ管圧力を、釣合管を経て補助機関車の分配弁作用シリンダに作用させるために用いられる。

日本では片運転台の電気機関車自体が少ないため、採用例は横軽用のEC40、ED40、ED42(1~4)に限られる。またディーゼル機関車でも電動空気圧縮機を搭載したDD50は、EL-14BSを採用した。

EL-6A:

EF13形電気機関車は、本来両運転台用のEL-14Aを使用すべきところ、戦時設計のため6番分配弁を使い、2台のブレーキ弁を切り替える1番切替弁や切替コックも省略したEL-6Aが採用された ※11 (後の車体載せ換え工事の際に、EL14ASに改造)

DL-14B:

DL-14空気ブレーキ装置は、空気圧縮機をエンジン駆動とした機関車用空気ブレーキ装置。EL-14と同じく、片運転台用の DL-14Bには6番分配弁が使用されている。DD11、DD13、DD14、DD15が採用した。

 

 

2022年9月25日 (日)

【JR西日本】多機能鉄道重機「零式人機 Ver.2.0」のデモンストレーション(動画)

Reishikijinki

株式会社人機一体、日本信号株式会社、西日本旅客鉄道株式会社(JR西日本)が共同開発中の、多機能鉄道重機「零式人機 Ver.2.0」が京都鉄道博物館で展示中です。

9月25日に行われたデモンストレーションの様子を見てきましたので、動画をYouTubeで公開しました。

2022年9月22日 (木)

自動空気ブレーキと制御弁 ④ F三動弁

F三動弁

【概要・開発】

WH社が開発した、貨物用・入換用機関車の炭水車のための三動弁。
1903年より前に開発され、それまでのF-24単純三動弁やG-24三動弁に取って代わった ※1

【構造】

全体は縦長で、上部にピストン、下部に度合弁がある。

F1-triple-valve ※1

2. 本体  3. シリンダ蓋  4. 蓋ナット  5. ピストン  6. 滑り弁  7. 度合弁  8. 度合棒  9. 度合弁バネ  10. 度合弁棒ナット  11. シリンダ蓋ガスケット  12. ピストンリング  13. ボルトとナット  14. 滑り弁バネ

 

【種類】

6・8・10インチ ブレーキシリンダ用の F-1 と、12・14・16インチ ブレーキシリンダ用の F-2 がある。

【作用】

常用ブレーキ、非常ブレーキともブレーキ指令の伝達を促進する機能(急ブレーキ作用、急動作用)を持たないため、「単純三動弁」(Plain Triple Valve)と呼ばれる。機関車用で、自分がブレーキ指令を行う立場だからであろう。

  1. 弛め込め位置
    ブレーキ管からの圧力空気はピストンを押し上げ、弛め位置に移動させる。すると込め溝が開き、ブレーキ管からの圧力空気は補助空気溜に込められる。同時にブレーキシリンダと排気ポートが連絡され、ブレーキが弛む。

  2. 常用位置
    ブレーキ管を減圧するとピストンが下がり、補助空気溜からブレーキシリンダへ圧力空気が流入し、ブレーキが掛かる。

  3. 重なり位置
    ブレーキ管の圧力が補助空気溜の圧力よりわずかに高くなると、ピストンを再び上方に動かし、空気通路を全て閉じる。ブレーキ管を更に減圧すると、ブレーキをより強く掛けることができる。

  4. 非常位置
    ブレーキ管を急激に減圧すると、ピストンも急速に下がって度合弁を開く。これにより補助空気溜よりブレーキシリンダへの大きな通路が開き、急速に圧力空気が送られる。但し常用ブレーキに比べてブレーキシリンダへの給気が早くなるだけで、常用位置よりも高い圧力を得られるわけではない。

【適用ブレーキ方式・車種】

AMF:

簡易な自動空気ブレーキ装置として、日本では主に私鉄向けの小型電気機関車や電動貨車に採用された。資料的に確認できる車両では、名古屋鉄道(←愛知電気鉄道) デキ370・デキ400 ※10 がある。

 

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2022年9月18日 (日)

自動空気ブレーキと制御弁 ③ K三動弁

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K三動弁

【概要・開発】

貨車用に広く使用された三動弁。現在日本ではK制御弁と呼ばれている。

WH社が1887年頃から供給したH三動弁(ボギー貨車50両編成用)を改良し、80両編成用として1905年より発売したもの ※3。日本ではかなり遅れて1921年5月に、ドイツ・クノール社製の自動空気ブレーキ装置との比較を含め、KCブレーキの実車性能試験を常磐線で実施した。1924年に導入を決定し、1928年頃から本格導入された ※6

国内では日本エヤーブレーキと三菱電機により1970年代までライセンス生産され、国鉄 → JRの一般貨車では1991年度新製分まで、この弁を標準として採用していた。

近年は、弁の摺り合わせなど製造・保守技術の伝承の問題や、保守部品の入手が困難になって来たことから、新製車ではEA-1制御弁を使用したCSD自動空気ブレーキ装置を採用、また既存車ではEF制御弁への取り替えなども行われている。

【構造】

ブレーキ管圧力と補助空気溜圧力の関係によってブレーキシリンダ圧力を制御する二圧式制御弁である。上部に主ピストンと滑弁、下部に非常ピストンと非常弁を持つ。重量は約30 kgf。

外観はP三動弁にそっくりだが、内部は度合弁の形状が異なるほか、減速バネと急動穴を持ち、P三動弁よりも高度な制御ができる。

K-triple-valve-kouzou ※4

1.弁体  2. 主ピストン  3. 滑弁  4. 滑弁バネ  5. 度合弁  6.非常ピストン  7. 非常弁座  8. 非常弁  9. 逆止弁  10. 逆止弁バネ箱  11.逆止弁  12. 塵漉し  13. 気筒蓋  14. 度合棒  15. 度合バネ  排水栓  17. 減速棒  18. 減速バネ  19. 制動筒管  20. 制動管  21.補助空気溜

K2-triple-valve-gaikan K-2三動弁(ホキ1827)

【種類】

給排気容量(空気通路の径)の違いによりK-1とK-2があるが、構造は全く同一である。組み合わせるブレーキシリンダの径によって、使い分けと排気絞り(後述)が定められている ※7

K-triple-valve-shibori

【作用】

ブレーキ管の増減圧に応じて以下の6つの作用を行う。

  1. 全弛め及び込め
    ブレーキ管内の圧力が上昇すると、ブレーキ管より補助空気溜へ圧力空気を供給し(込め)、同時にブレーキシリンダ内の圧力空気を大気中へ吐き出す事でブレーキを弛める。
    ブレーキ管と補助空気溜の圧力差が小さい時に取る位置で、主として列車の後方の三動弁で作用する。


  2. 減速弛め及び込め
    基本的な作用は全弛め及び込めと同じだが、ブレーキ管と補助空気溜の圧力差が比較的大きい時に取る位置で、ブレーキ管から補助空気溜への空気通路を絞って、自分の補助空気溜への給気を抑えて圧力空気を後続車に回す。
    列車前部の車両が込めすぎになるのを防ぎ、編成全体をなるべく均等に込めることを目的としている。


  3. 急制動
    ブレーキ管の減圧速度が比較的小さい時に取る位置で、補助空気溜の圧力空気をブレーキシリンダに供給してブレーキを掛ける。
    なお減圧の初期にブレーキ管の圧力空気をブレーキシリンダに流入させ、ブレーキ管を局部的に減圧することで、ブレーキ指令の伝播速度を向上させる(急ブレーキ作用)


  4. 全制動
    ブレーキ管の減圧速度が比較的大きい時に取る位置で、補助空気溜の圧力空気をブレーキシリンダに供給してブレーキを掛けるのは急制動と同じだが、急ブレーキ作用は行わない。


  5. 重なり
    補助空気溜の圧力空気がブレーキシリンダに供給され、補助空気溜圧力がブレーキシリンダ圧力よりわずかに低くなると、補助空気溜からブレーキシリンダへの空気通路が閉塞され、ブレーキシリンダ圧力は一定に保たれる。
    5.0 kgf/cm2のブレーキ管圧力を1.4 kgf/cm2減圧した時、ブレーキシリンダ圧力が3.6 kgf/cm2になるように、補助空気溜とブレーキシリンダの容積が設定されている。


  6. 非常制動
    ブレーキ管の減圧が急激な場合、補助空気溜の圧力により非常弁を開き、ブレーキ管の圧力空気をブレーキシリンダに流入させることで、大きな局部減圧を起こすと共に、ブレーキシリンダ圧力も若干高くなる。

編成の前後で弛めのタイミングが異なり衝動が発生するのを防止するためと、降坂時に又込めの時間を十分取れるよう、排気管に絞りを設けて、ブレーキシリンダからの排気を遅くしている。このためブレーキが全部弛んでしまうまでに約10秒が必要で、独特な排気音がする原因となっている。

構造上、弛め後に重なり位置を取ることができないため、ブレーキを段階的に弛める「階段弛め」はできない。すなわち弁がブレーキ管の増圧を感知すると、ブレーキは一度に全て弛んでしまう。これは運転士のブレーキ扱いに大きな制約を加えるが、逆にこの特徴をうまく利用して、上り勾配における圧縮引き出しなど高度な運転操作も行われていた。

また大井川鉄道井川線の車両では、ブレーキシリンダからの排気に電磁弁を併用することで、階段弛めを可能にしている ※9

【適用ブレーキ方式・車種】

KC

K三動弁・補助空気溜・ブレーキシリンダを一体に組み立てた(Combined)ユニット式の空気ブレーキ装置で、車両への艤装が容易なことから最も多く使われていた。

Kc-brake-system ※4

1.制動管  2. 制動支管  3. 締切コック  4. 渦巻塵取  5.K三動弁  6. 補助空気溜  7. 弛め弁  8. 制動筒  9.圧力計  10. 車掌弁  11. 肘コック  12. 空気ホース

KD

三動弁と補助空気溜を一体に組み立て、ブレーキシリンダを分離した(Detached)ブレーキ装置。寸法や機器配置の関係でKC型が使えない車両を中心に採用されており、特にタンク車・ホッパ車や、二軸車でも車体長が特に短い車両で多く見られた。

Kd-brake-system-hoki1680
ホキ800形ホキ1680 のKDブレーキ装置。補助空気溜(中央の円筒)の右側にK-2三動弁が取り付けられ、補助空気溜の左向こうに254㎜ブレーキシリンダが見える。赤く塗られているのは排気絞り。2011年3月24日 山陽本線小郡駅

Kd-brake-system-hoki1827
ホキ800形ホキ1827 のKD型ブレーキ装置。ブレーキシリンダだけでなく、補助空気溜も別置きとなっている。2007年11月25日 中央本線八王子駅

KE

高圧ガスタンク車など自重の大きい貨車用として、客車用E型ブレーキシリンダ(305㎜)にK-2制御弁を直接取り付け、補助空気溜を別置きとした方式。

KSD

貨車では、積車時にはブレーキ力が不足して制動距離が伸び、空車時には逆に過剰となって滑走する事が多いため、KD形に荷重検知器とO切替弁を追加し、ブレーキシリンダをD形差動シリンダに置き換えた積空ブレーキ装置。差動ブレーキシリンダの空気通路を切り替えることでピストンの有効面積を変化させ、積車時と空車時で、自動的にブレーキ力を2段階に切り替えることができる。

1964年に製作されたタキ1900形で初めて採用され、これ以降に新製された私有ボギー貨車用空気ブレーキ装置の標準となった。

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タキ1900形 タキ71997 の台車に取り付けられた荷重検知器とO切替弁。2021年3月15日、関西本線 四日市駅

KRSD

車体構造上、前後の台車間にブレーキ引棒を渡すことが困難な新ホキ1000形・ホキ10000形に使用された積空ブレーキ装置。台車ごとにブレーキダイヤフラムを持つため、中継弁によりブレーキダイヤフラム圧力を直接変化させてブレーキ力を切り替える。

K三動弁、中継弁、荷重検知器、供給空気溜、2室空気溜、ブレーキダイヤフラムで構成される。

旅客車用:

運転速度の遅い小規模私鉄では、客車にもK三動弁が採用された例がある。三菱石炭鉱業大夕張鉄道の客車にはK-2三動弁が使われていたが、KCかKDかは不明※8。また別府鉄道のハフ5は、KCブレーキ装置を装備した状態で保存されている。

現役車両としては、大井川鐵道井川線の客車がK三動弁を使用している※9。これもKCかKDかは不明。東京ディズニーランドのウェスタンリバー鉄道の客車も、1990年代はK三動弁のような排気音がしていた記憶がある。

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別府鉄道 ハフ5 のKCブレーキ装置。三動弁は取り外されているようだ。2005年11月2日、播磨町郷土資料館。

 

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