自動空気ブレーキと制御弁 ⑪ A動作弁(その2)
「自動空気ブレーキと制御弁」 第11回は、国産の代表的な制御弁である「A動作弁」の2回目。A動作弁の種類と作用について、解説します。
A動作弁
【種類】
構造で述べたように、動作弁取付座の空気通路に取り付ける絞り栓と、補助空気溜・附加空気溜の容量を変更することで、305 mmと355 mmの2種類のブレーキシリンダに対応できる。そのため細分形式はない。
昭和13年4月より、非常ブレーキ後に弛めが可能になるまでの時間を短縮する(約12秒 → 3~5秒)改良が行われたが ※26、それに伴う形式の変更は行われていない。
【作用】 ※26
最初の込め
各空気溜やブレーキシリンダに圧力空気がない時に、ブレーキ管に圧力空気を込めた時に取る位置で、各空気溜に圧力空気を込める。
釣合ピストン・非常ピストンはそれぞれのピストン室にブレーキ管からの圧力を受けて、滑り弁室側に押し込まれ、圧力空気は補助空気溜・附加空気溜・急動空気溜に込められる。その時、附加空気溜へ送られる空気の一部は高圧弁を閉塞し、附加空気溜への空気がブレーキシリンダに漏れ込むのを防ぐ。
各空気溜が所定の圧力に込められると、逆止弁及び球弁はその座に落ち着いて状態を維持する。
又込め及び弛め
一度減圧したブレーキ管に圧力空気を込める時に取る位置で、各空気溜に圧力空気を込めると共に、釣合度合弁及び釣合滑り弁によりブレーキシリンダの圧力空気を排出して、ブレーキを弛める。
基本的には最初の込めと同じ作用を行うが、附加空気溜の圧力空気も補助空気溜に込められ、込め時間の短縮を図っている(急又込め)
また急動空気溜への空気通路を絞って、補助空気溜と附加空気溜を優先的に込めるようになっている。
急ブレーキ位置
ブレーキ管圧力を比較的緩やかに減圧した時に取る位置で、ブレーキ管の局部減圧を行って後部車両へのブレーキ指令の伝達を促進する(急ブレーキ作用)と共に、常用ブレーキを掛ける。
釣合部では、
1. ブレーキ管の減圧によりピストン室の圧力が減少すると、ピストンはまず釣合ピストン棒と釣合度合弁との隙間(3 mm)だけ移動し、込め溝を塞いで補助空気溜からブレーキ管へ圧力空気が逆流するのを防ぎ、ブレーキ管の減圧を確実にする。
2. その後釣合ピストンは、釣合滑り弁と釣合度合弁を伴って更に動き、度合弁バネに突き当たって止まる。
3. この時急動逆止弁の背面は、釣合滑り弁・釣合度合弁によってブレーキシリンダに通じるので、ブレーキ管の圧力空気は逆止弁を開いて、一部がブレーキシリンダに流入する。これによりブレーキ管の局部減圧を行う。
また釣合滑り弁の通路が開いて、補助空気溜の圧力空気がブレーキシリンダに送られる。
非常部においては、
1. ピストン室の圧力が減少するので、滑り弁室の圧力により球弁は座に落ち着き、ピストンは非常度合弁を伴って、非常度合弁バネに突き当たるまで移動する。
2. この時非常滑り弁と非常度合弁の穴が合致して、ピストン背面及び急動空気溜の圧力空気は徐々に大気に放出される。そのため非常ピストンは非常度合弁バネに突き当たった位置で止まったままとなる。
3. この時非常滑り弁は動かないので、非常ブレーキ作用は行われない。
全ブレーキ位置
急ブレーキ位置と比べてブレーキ管の減圧が早い場合に取る位置で、常用ブレーキを掛けるが、急ブレーキ作用は行わない。
釣合部では、
1. ピストン両面の圧力差が大きいため、ピストンは度合弁バネを圧縮し、急ブレーキの位置を通り越して極端まで動く。
2. この時逆止弁背面への通路は釣合滑り弁で塞がれるため、ブレーキ管の圧力空気はブレーキシリンダへ流入しない。
3. また急ブレーキ位置と同じく釣合滑り弁の通路が開いて、補助空気溜の圧力空気がブレーキシリンダに送られる。
非常部の動きは、急ブレーキ位置の場合と変わらない。
ブレーキ重なり位置
ブレーキ管の減圧を止めた時に取る位置で、ブレーキシリンダ圧力をその時の状態に維持する。
釣合部では、
1. ブレーキ管の減圧が止まってその圧力が一定になっても、補助空気溜の圧力空気はブレーキシリンダに流入し続ける。
2. その結果、釣合滑り弁室圧力(補助空気溜圧力)がピストン室圧力(ブレーキ管圧力)よりも幾分低くなると、釣合ピストンは釣合度合弁を伴って、釣合滑り弁に当たるところまで戻る。
3. この時、各空気通路は閉鎖されて、ブレーキシリンダ圧力は一定に保たれる。
4. また補助空気溜から釣合滑り弁抵抗溝への通路が開き、滑り弁の摺動抵抗を減らして、次の弛め作用を確実にするよう準備される。
なお補助空気溜とブレーキシリンダとの容積比は凡そ3.25対1に設計されている。このため最初490 kPa(5.0kg/cm2)に込められたブレーキ管圧力を137 kPa(1.4kg/cm2)減圧すると、補助空気溜圧及びブレーキシリンダ圧力は353 kPa(3.6 kgf/cm2)となって釣り合う。これを最大減圧量と言い、それ以上の減圧は無効となる。
非常部においては、ブレーキ位置では非常ピストン背面(急動空気溜)の圧力空気が徐々に排出されているが、ブレーキ管の減圧が止まって一定になると、ピストン背面の圧力の方が低くなって、ピストンは滑り弁室側に押し込まれる。これにより急動空気溜圧力は、その時のブレーキ管圧力と釣り合う。
弛め重なり位置
弛めの途中でブレーキ管の増圧を止めた時に取る位置で、各空気溜への圧力空気の込めを停止すると共に、ブレーキシリンダ圧力をその時の状態に維持する。
釣合部では、
1. ブレーキ管の増圧が続く内は弛め位置を取るが、増圧が止まって圧力が一定になっても、附加空気溜の圧力空気は補助空気溜に流入し続ける。
2. その結果、釣合滑り弁室圧力(補助空気溜圧力)が釣合ピストン室圧力(ブレーキ管圧力)よりも幾分高くなると、釣合ピストンは釣合度合弁を伴ってピストン室側へ移動し、釣合滑り弁に当たって止まり、各空気通路を閉鎖する。
非常部においては、ブレーキ管の増圧に伴い非常ピストンは押し込まれて急動空気溜を込めるが、ブレーキ管と急動空気溜の圧力が釣り合った時点で非常ピストンの両面の圧力が釣り合い、球弁が座に落ち着いて、急動空気溜への込めも止まる。
弛め重なり位置において再びブレーキ管圧力が上昇すると、釣合部は再び弛め位置を取り、上昇が止まればまた弛め重なり位置を取る。このようにして、附加空気溜の圧力とブレーキ管圧力が釣り合うまでは、段階的にブレーキを弛めることができる(階段弛め)
非常ブレーキ位置
ブレーキ弁や車掌弁からの非常ブレーキ指令、ブレーキ管の破損や列車の分離などで、常用ブレーキよりも早い速度でブレーキ管の減圧が行われた時に取る位置。
釣合部は全ブレーキ位置と全く同じ作用を行う。但しピストンの動きは、常用ブレーキよりも早く行われる。
非常部では
1. まず非常ピストンが非常度合弁を伴って動き、常用ブレーキ位置を取るため、急動空気溜の圧力空気が排出される。
2. この時ブレーキ管圧力の降下の方が早いので、ピストンの非常滑り弁側の圧力が高まり、ピストンは非常度合弁バネを押し込んで全ブレーキの場合よりわずかに多く移動する。
3. それにより非常度合弁は非常滑り弁の穴を開いて、急動空気溜の圧力空気を急動部の逃しピストン下部に送る。その圧力空気により逃しピストンは押し上げられ、逃し弁を開くので、ブレーキ管の圧力空気は急動部の吐出穴から大気中に放出され、ブレーキ管を急激に減圧する(急動作用)
4. ブレーキ管の急激な減圧は非常部に伝わり、非常ピストンは非常度合弁バネを大きく押し込んで極端まで移動し、非常度合弁及び非常滑り弁に非常位置を取らせる。
5. すると非常滑り弁によって高圧弁背面の圧力空気が大気に放出されるので、高圧弁下部に作用する附加空気溜圧力はバネに打ち勝って高圧弁を開き、附加空気溜の圧力空気はブレーキシリンダに送られる。
6. この時、補助空気溜と附加空気溜の圧力空気が合わさって、ブレーキシリンダ圧力は約441 kPa (5 kgf/cm2)まで上昇する。
更に各弁の動作を確実にするために、並行して以下の作用が行われる。
・ 急動空気溜圧力が逃しピストンの下部に送られ、逃しピストンの開きを保つ。
・ 附加空気溜圧力が非常ピストンの背面に導かれ、ピストンの位置を保つと共に、ピストン背面の圧力がブレーキ管に漏れ込むのを防ぐ。
・ 同じく釣合ピストンの位置を保つと共に、ピストン背面の圧力がブレーキ管に漏れ込むのを防ぐ。
・ 逆止弁を弁座に付けて、ブレーキシリンダ圧力がブレーキ管に漏れ込むのを防ぐ。
逃しピストンに作用した空気はピストンにある穴及び逃し溝を通じて、約3~5秒で排出されるので、逃し弁バネにより逃しピストンと逃し弁は押し下げられて元の状態に戻り、非常ブレーキ後の弛めを可能にする。
(第12回へ続く)
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