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2023年1月

2023年1月31日 (火)

自動空気ブレーキと制御弁 ⑩ A動作弁(その1)

「自動空気ブレーキと制御弁」 第10回よりは、国産の代表的な制御弁である「A動作弁」について、複数回に分けて解説します。

A動作弁

【概要・開発】 ※3・17

国産初の旅客車用制御弁で、1960年代以降の文献では「A制御弁」と呼ばれるが、本稿では原則として「A動作弁」に統一する。

鉄道省は自動空気ブレーキを導入するに当たり、客車用には1921年(大正10年)2月よりWH社のPM形(P三動弁)、1923年(大正12年)5月よりクンツェ・クノール社(ドイツ)の客車用P形三動弁、1924年(大正13年)にはWH社の電車用MN形(M-2-C三動弁)、更にWH社のU-5自在弁の試験を行ったが、いずれも採用にならなかった。

その結果、1927年(昭和2年)に至って鉄道省工作局が主幹となって日本の鉄道車両に適した三動弁を開発することになり、日本エヤーブレーキと三菱電機に設計を依頼し、日本エヤーブレーキの案を採用して1928年(昭和3年)8月に正式化されたのがA動作弁である。

A動作弁について解説した文献ではU自在弁を簡略化して(新たに)開発したとするものが多いが、後述するように、WH社のL三動弁(1907年開発)を元にU自在弁の一部機能を盛り込んで改良設計した可能性があり、純粋な国産の制御弁とは言い難いところがある。

鉄道省では、電車には1928年(昭和3年)7月より採用。客車には1929年(昭和4年)5月より取付けを始め1931年(昭和6年)7月までに完了した。気動車には1931年のキハニ36450形より採用。更に一部の大型貨車にも採用され、昭和の初期から30年代に至るまで、国鉄の旅客車はほぼ例外なくA動作弁を搭載していると言っても過言ではない状況であった。私鉄でも電車では1960年代まで、また一部では気動車や電気機関車にも採用された。

1965年(昭和40年)までに次世代の制御弁が開発されてからも、既存形式の増備に当たってはなおA動作弁が採用され続け、廃車発生品の流用ながら、結局は国鉄最後の新製形式キハ31・キハ32・キハ54に至るまでこの弁を採用した。

開発より100年近くになり、最新世代の制御弁や電気指令式ブレーキへの移行により、流石にその数を大幅に減らしているが、現在もなおJRの電車では103系(0番台)・113系・115系・415系、気動車ではキハ32・キハ54(0番台)、貨車ではレール輸送用のチキ5500・チキ6000、私鉄では小湊鐵道キハ200形(一部)などに残存している。

 

【構造】 ※1・4・7・26

ブレーキ管圧力と補助空気溜圧力の関係によってブレーキシリンダ圧力を制御する二圧式制御弁で、金属ピストンを使用した滑り弁式の制御弁である。非常ブレーキの制御を非常部として独立させたのが大きな特徴。材質は鋳鉄製で、重量は約27kg。

釣合ピストンがレール方向になるように取り付けられるのが元々であるが、新性能電車以降のブレーキ制御装置では90度回して枕木方向に取り付けられるようになった。これは、加減速による衝動によって釣合ピストンが無用な動きをしないようにするための対策であると思われる。

従来の三動弁と同じく補助空気溜・附加空気溜とブレーキシリンダが付属するほか、非常ブレーキ制御用の急動空気溜が追加された。

C1-brake-controller
新性能電車用C1ブレーキ制御装置に組み込まれたA動作弁。下の分解図に近い角度での撮影。クモハ101-902。2007年10月24日、鉄道博物館

A-control-valve_structure
A動作弁分解図 ※26

1.非常滑弁室蓋                 2.釣合弁室                          3.釣合滑弁ブシュ               4.釣合滑弁室蓋
5.高圧弁蓋                       6.逆止弁蓋                          7.非常シリンダ蓋                8.釣合シリンダ蓋
9.釣合シリンダ蓋詰座          10.釣合度合棒                      11.釣合度合バネ                 12.釣合ピストンブシュ
13.逃し弁                         14.逃し弁座                          15.逃しピストン蓋               16.逆止弁蓋
17.球弁                           18.非常度合バネ                   19.非常度合棒                   20.非常シリンダ蓋
21.非常シリンダ蓋詰座        22.非常ピストンブシュ            23.非常ピストン                 24.非常滑弁室
25.非常滑弁                     26.非常滑弁バネ                   27.非常滑弁室蓋               28.高圧弁座
29.高圧弁                        30.高圧弁バネ                      31.高圧弁室ブシュ              32.高圧弁蓋詰座
33.高圧弁蓋                     34.非常ピストン                    35.非常ピストン棒              36.非常度合弁
37.非常滑弁                     38.釣合ピストン                    39.釣合度合弁                  40.釣合滑弁


釣合部

釣合部は弁の中段に位置し、水平に置かれた釣合ピストンと、それによって駆動される釣合滑り弁・釣合度合弁・逆止弁・釣合度合バネなどによって構成され、弛め及び込め・急ブレーキ・全ブレーキ・ブレーキ重なり・弛め重なりと言う、常用ブレーキの機能を担う。また非常ブレーキの際は、非常部と共にブレーキ作用を行う。

1. 釣合ピストン

ピストンの両側にはブレーキ管と補助空気溜の圧力が作用し、それらの圧力差によって駆動される。そしてその動きにより釣合滑り弁及び釣合度合弁がそれぞれの弁座を摺動し、各種空気通路を連絡・遮断する。また釣合ピストンの下部には込め溝があり、ピストンによって開閉される。

2. 釣合滑り弁

釣合ピストンによって動かされ、以下の空気通路を構成する。
・ 附加空気溜 ~ 補助空気溜へ
・ ブレーキ管 ~ ブレーキシリンダ
補助空気溜 ~ ブレーキシリンダ
ブレーキシリンダ ~ 大気

また摺動面には抵抗穴という細長い凹みが設けられており、ブレーキ時にはこの中の空気を排出して弁座との間の摩擦抵抗を増し、ブレーキ管圧力の細かな変化により弁が無用に動くことを防ぐ。逆に弛めの際は抵抗穴に圧力空気を込めることで摩擦抵抗を減らし、弛め不良を防ぐ。

3. 釣合度合弁

釣合ピストンによって動かされ、以下の空気通路の連絡を行うほか、前記の釣合滑り弁抵抗穴への空気の給排を行う。
附加空気溜 ~ 補助空気溜
補助空気溜 ~ ブレーキシリンダ
ブレーキシリンダ ~ 大気
ブレーキ管 ~ ブレーキシリンダ

4. 逆止弁

急ブレーキ作用の際に、ブレーキ管圧力空気の一部をブレーキシリンダに込める。

5. 度合弁バネ

急ブレーキ作用と全ブレーキ作用の区別を行うと共に、全ブレーキや非常ブレーキの際に、釣合ピストンが釣合シリンダ蓋詰座に突き当たる際の緩衝器となる。

非常部

非常部は弁の上部にあり、釣合部と直交する形に設けられている。水平に置かれた非常ピストンと、それによって駆動される非常滑り弁・非常度合弁・球弁・非常度合弁バネなどによって構成される。また釣合部の横に、直交するように高圧弁を備える。

1. 非常ピストン

両面にはブレーキ管と急動空気溜の圧力が作用し、その圧力差でピストンが駆動される。常用ブレーキの時は非常度合弁バネに当たるまで、非常ブレーキの時は大きな圧力差により非常度合バネを圧縮して極端まで動き、常用ブレーキと非常ブレーキの区別を行う。

2. 非常滑り弁

非常ブレーキの時以外は込め位置にあり、急動空気溜と滑り弁室を連絡すると共に、附加空気溜の圧力空気を高圧弁の背後に作用させて、附加空気溜とブレーキシリンダとの連絡を遮断している。非常ブレーキの時は、次の連絡を行う。
・ 急動空気溜 ~ 逃しピストン室
・ 高圧弁背面 ~ 大気
・ 附加空気溜 ~ 非常滑り弁室

3. 非常度合弁

常用ブレーキの時は急動空気溜の空気を大気に排出してピストン両面の圧力差を小さくし、非常ピストンが非常位置まで行かないように阻止する。非常ブレーキの時は非常滑り弁が動き出す前に、急動空気溜の空気を逃しピストンに送る。

4. 非常度合弁バネ

常用ブレーキの時に、非常ピストンが非常位置まで移動しないようにする。

5. 球弁

ブレーキ管減圧の際に急動空気溜の空気が逆流しないようにする逆止弁である。

6. 高圧弁

非常滑り弁によってこの弁の背面の空気が排気されると、附加空気溜の圧力空気によって押し上げられ、附加空気溜とブレーキシリンダを連絡する。

急動部

弁の下部にあって、縦型に設けられた逃しピストン・逃し弁などから構成される。非常ブレーキの時のみ、急動空気溜からの圧力空気により作用して、ブレーキ管の圧力空気を大気に排出する。

 

L三動弁とは外観や基本的な弁の配置がよく似ており、A動作弁を開発する際の元となった可能性が大きい。但し以下のような相違はある。 ※1

1. L三動弁は従来の三動弁と同様、対応するブレーキシリンダのサイズ別に設計されていたが、A動作弁ではU自在弁にならって取付座の空気通路に絞り栓を設けることで、複数のサイズのブレーキシリンダに同一の動作弁で対応できる。(L三動弁では、L-1-B: 8・10 in用、L-2-A: 12・14 in用、L-3: 16・18 in用)

2. A動作弁では、釣合滑り弁に抵抗穴が設けられ、滑り弁の意図しない動きを抑制する対策が行われた。

3. L三動弁では非常ブレーキ関係の弁の駆動も補助空気溜圧力によって行うが、A動作弁では独立した急動空気溜の圧力空気で行う。

4. 常用ブレーキと非常ブレーキとの区別は、L三動弁では常用ブレーキと同じ釣合部で行うのに対し、A動作弁では独立した非常部で行う。

5. 弁上部の非常ピストンは、L三動弁ではバイパスピストンとなっており、非常ブレーキ時に補助空気溜圧力により駆動されて、附加空気溜の圧力空気をブレーキシリンダに送るのみの機能となっている。一方A動作弁では非常部として、非常ブレーキの制御を担う。

6. 弁下部の逃しピストンは、L三動弁では非常ピストンと呼ばれる。非常ブレーキ時に補助空気溜の圧力で押し下げられて非常弁を開き、ブレーキ管の圧力空気をブレーキシリンダに流入させて急動作用を行う。ブレーキ管圧力はブレーキシリンダ圧力と釣り合うまでしか減圧できないので、大気に排出して圧力ゼロまで減圧できるA動作弁と比べて、急動作用としては不十分である。

7. L三動弁では釣合部に安全弁が設けられており、常用ブレーキ時にはブレーキシリンダと連絡して、その圧力を制限する。

L2a-triple-valve

L三動弁の断面図 ※1

(続く)

2023年1月25日 (水)

【阪急・JR西日本】大雪の日の朝

大雪で、特にJR西日本の近畿圏のほとんどの路線が運転見合わせになった1月25日、
出勤時に見た様子をご紹介します。

阪急電鉄でも、分岐器にカンテラが焚かれていました。
カンテラの準備がされているのは一冬に1・2回見かけますが、
実際に火が入れられたのは数年振りのように記憶しています。
写真は、西宮北口駅13号線の留置車越しに撮影。
Hankyu_cantera_20230125

大阪駅で、昨夜から停車したままの新快速米原行きが、なお停車中。
向こうには、第二場内信号機で抑止中の後続列車が。
Jrwest_osaka-station_20230125

大阪駅11番線には、EF81 113 [敦] が抑止中でした。
Jrwest_ef81-113_20230125

2023年1月10日 (火)

【阪急】2023年1月10日朝の西宮車庫

・C#7003×6Rが、庫内A4番線で『休車』札を掲出して留置中

・庫外にC#7030×2Rが、転落防止幌を取り付けたまま、単独で留置中

2023年1月 4日 (水)

自動空気ブレーキと制御弁 ⑨ U自在弁

「自動空気ブレーキと制御弁」 第9回は、日本では電車に使用された「U自在弁」について解説します。

U自在弁

【概要・開発】

WH社が1913年(大正2年)に販売を開始した、旅客車用の制御弁。「自在弁」は「Universal Valve」の翻訳であるが、「万能弁」と訳した資料もある。

先に1907年(明治40年)に開発されたL三動弁は、従来の三動弁から非常部を独立させ、伝達促進・急又込め・階段弛め・非常急動・非常高圧など、一通りの機能を備えた一応の完成形であったが、それを更に発展させた位置づけで、10両(以上)編成に対応する多様な特徴を有していた。

日本ではずっと遅れて、1927年9月に鉄道省が電車の長編成化に向けて採用を検討する試験を行ったが ※17、精緻な構造故に高価で、しかも高度な保守技術を要求されたため、当時の鉄道省の要求水準・技術水準に照らして採用に至らず、国産のA動作弁の開発につながった。

例外的に、関西で高速・長編成を指向した新京阪鉄道・参宮急行電鉄・大阪電気軌道・阪和電気鉄道・大阪市電気局のみが、三菱電機のライセンス生産品を採用した。

後に、保守に手を焼いてA動作弁を使ったAMAなどに改造された車両が少なくなかった中、大阪市では1951年(昭和26年)製作の吊掛車600形まで、この制御弁を採用した。 ※24

【構造・作用】

構造や作用について解説した資料がなく、詳細は不明であるが、白井 昭氏によると概要は以下の通りである。 ※3

特長としては
 ・迅速な指令の伝達
 ・
高感度で安定
 ・
常用ブレーキ後でも確実に非常制動が作用
 ・
常用・非常で異なるブレーキシリンダ圧力を設定
 ・
迅速・均等かつ確実な又込め
 ・
込め不足の保護
 ・
確実な弛め
 ・
非常ブレーキ後の迅速な弛め
などがあり、高い感度・機能とその均等性・安定性を実現するために、常用・非常・伝達促進(急ブレーキ)の各部分を独立させ、三動弁の機構の他に高圧弁・保護弁・弛め弁などを備えている。

具体的には管座の片側に釣合部、もう一方に非常部と急動部を取り付けてあり、釣合部には弛め弁・E6安全弁・締切弁・一段弛め蓋などが、非常部には急動弁・高圧弁・保護弁・パイロット弁などが付属している。また形式によっては、直通ブレーキ部が付属する。

U5-universal-valve_01 U5-universal-valve_02 
大阪市電気局105号(保存車)に搭載のU-5自在弁。昭和6年9月、三菱電機株式會社製。
2007年11月10日、大阪市交通局緑木検車場にて一般公開時に撮影。

外観を見る限り、金属ピストンと滑り弁を使用した二圧式の制御弁で、写真左側(安全弁が見える側)が釣合部と思われる。

【細分形式】

開発当初はU-1・U-2・U-4・U-5や、直通ブレーキ付のU-4-A・U-5-A、電磁ブレーキ付のUE-5などがあり、1915年にはU-12・U-12-A・UE-12などが登場した。更に1940年頃にはU-12-BDが開発され、主に北米大陸の鉄道で多数が使用された。

なお従来の三動弁ではブレーキシリンダのサイズ(内径)別に複数の型式が設計されていたが、U弁では絞りを変更することで異なるサイズのブレーキシリンダに対応できるようになった。この考え方は、国産のA動作弁にも引き継がれている。

【適用ブレーキ方式・車種】

AMU

電車用のブレーキ装置で、国内では以下の事業者・形式に使用された。
 ・
新京阪鉄道             P-6形
 ・
参宮急行電鉄          2200系
 ・
大阪電気軌道          デボ1400形
 ・
阪和電気鉄道          モタ300形、モヨ100形など
 ・
大阪市電気局          100形~600形

いずれも保守の困難性や部品入手上の問題から、1950年代までにはA動作弁を使用したAMA方式への更新、電磁直通ブレーキへの改造(大阪市)が行われ ※24、消滅した。

なお大阪市交通局105号は静態保存車となっており、制御弁もU-5に復元されている。現在動態保存化へ向けて整備中との情報もあり ※25、実現すればAMUブレーキの復活となる。

 

2023年1月 1日 (日)

近所の神社に初詣に行った帰りに撮った、『初詣』ヘッドマーク掲出の阪急電車

2023年1月1日

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