自動空気ブレーキと制御弁 ⑧ 電車用 J三動弁
「自動空気ブレーキと制御弁」 第8回は、主に電車に使用された「J三動弁」について解説します。
J三動弁 (J triple valve)
【概要・開発】
ゼネラル・エレクトリック社(General Electric Company, GE)が開発したEMU(総括制御電車)用の制御弁。開発時期は不明だが、遅くとも1913年(大正2年)までには開発されていたようである。
機能的にはWH社のM三動弁にほぼ匹敵するが、技術的には劣っていて、AMM程には普及せず、また淘汰されるのも早かった ※3。
日本に導入されたのは、白井昭氏によると1914年(大正3年)の京浜線用モハ1形からとされているが、日本国有鉄道百年史及び国鉄電車発達史の記述によれば、同系列には自動兼直通式のAMMが採用された模様で、J三動弁は大正14年度(1925年度)新製電車から採用されたと読み取れる。
前記の通り、当時の鉄道省は技術的に不満であったようで、昭和5年度(1930年度)以降は国産のA動作弁に置き換えられた。しかし短期間とは言え国鉄電車に全面的にJ三動弁が採用されたのは、同じくGEからの電機品(主制御器・主電動機など)の輸入国産化をスムーズに進めるための交換条件であったのかも知れない。
【構造】
ブレーキ管圧力と補助空気溜圧力の関係によってブレーキシリンダ圧力を制御する二圧式制御弁である。ブレーキシリンダ蓋の下部に3本のボルトで取り付けられ、上部に釣合ピストン、下部にはそれと直交する方向に非常ピストンと非常逆止弁、更にその下に制動管逆止弁を持つ。
1. 取付座 2. 非常ピストン室 3. 釣合ピストン室蓋
4. 釣合ピストン室 5. 込メ溝プラグ 6. 非常逆止弁室
7. 制動管逆止弁室
【種類】
組み合わせるブレーキシリンダの大きさにより複数の種類があったようであるが、鉄道省ではJ5Aを採用した ※20。
【作用】 ※20
ブレーキ管の増減圧に応じて以下の4つの作用を行う。
- 弛め及び込め
ブレーキ管内の圧力が上昇すると、釣合ピストンは滑り弁を伴って移動し、ブレーキ管の圧力空気を補助空気溜及び附加空気溜へ込める。
ブレーキ後にブレーキ管を増圧した時は、釣合ピストンの移動によって、ブレーキ管及び附加空気溜の圧力空気を補助空気溜に込める。同時にブレーキシリンダの圧力空気が排気される。 - 急制動
ブレーキ管の減圧が比較的小さい時に取る位置で、釣合ピストンは滑り弁と度合弁を伴って移動し、ブレーキ管及び補助空気溜からブレーキシリンダへの通路を開く。それによりブレーキ管の局部減圧を行う(急ブレーキ作用)と共に、ブレーキシリンダへ圧力空気を込める。 - 全制動
ブレーキ管の減圧が大きい時に取る位置で、釣合ピストンは滑り弁と度合弁を伴って急制動位置より更に移動し、ブレーキ管及び補助空気溜からブレーキシリンダへの通路を開く。それによりブレーキ管の局部減圧を行う(急ブレーキ作用)と共に、滑り弁が全開となるため、補助空気溜の圧力空気は十分にブレーキシリンダへ込められる。 - 制動重なり
ブレーキ管の減圧が終了し、弁内の滑弁室の圧力がブレーキ管より少し低くなると、釣合ピストンは度合弁を伴って少し戻る。それにより補助空気溜からブレーキシリンダへの空気通路が閉塞され、ブレーキシリンダ圧力は一定に保たれる。 - 弛め重なり
自動ブレーキ弁を弛め位置に置いてブレーキ管圧力を増圧し、次に重なり位置に移すと、三動弁は弛め重なり位置を取る。ブレーキ管圧力が補助空気溜圧力より高くなると、釣合ピストンは滑り弁及び度合弁を伴って戻り、弛め込め作用が行われる。その後ブレーキ弁を重なり位置に移し、補助空気溜圧力がブレーキ管圧力より少し高くなると、釣合ピストンは度合弁を伴って移動する。この時度合弁は補助空気溜と附加空気溜を結ぶ通路、及びブレーキシリンダの排気通路を塞ぐことで、ブレーキシリンダ圧力空気の
一部は排出され、残りはそのまま保たれる。 - 非常制動
ブレーキ管の減圧が急激な場合、釣合ピストンは度合バネを圧縮して極端にまで移動する。それにより附加空気溜の圧力空気はブレーキシリンダに流入し、同時にブレーキ管圧力空気も、非常逆止弁を開いて一部がブレーキシリンダに流入する。直後に非常ピストンの両面の圧力が釣り合うため、非常ピストンと非常逆止弁はブレーキ管とブレーキシリンダの連絡を遮断する。
【適用ブレーキ方式・車種】
AVR:
GE社のJ三動弁付自動空気ブレーキ装置の呼称で、鉄道省ではWH式にAMJとも呼んだ(国際的には通用しない) P三動弁と同じくF形ブレーキシリンダと組み合わせて使用された。
比較的初期に吐出電磁弁を付加して電磁自動空気ブレーキ(呼称はJE)化されたが、1927年(昭和2年)にはWH社のU自在弁との比較試験が行われ、更に1930年(昭和5年)からは国産のA動作弁に切り替えられた。その後急速にA動作弁への取り替えが行われ、淘汰された。
私鉄では南海電気鉄道が、1921年(大正10年)製作の電4形以降の木造車で、AMJ-Cを標準として採用していた。 ※21
なお少数ながら電気機関車でも使用されており、名鉄デキ600形がAMJである ※21。また岳南鉄道ED29(元豊川鉄道→国鉄)、ED32(元伊那鉄道→国鉄)もAMJとの記述 ※8 があるが、別資料 ※22 ではいずれもAMMとなっており、確証がない。
« 【録音】京福電鉄西院駅の踏切警報電鐘 | トップページ | 近所の神社に初詣に行った帰りに撮った、『初詣』ヘッドマーク掲出の阪急電車 »
「鉄道技術」カテゴリの記事
- 自動空気ブレーキと制御弁⑬ B動作弁(2023.03.06)
- 自動空気ブレーキと制御弁⑫ A動作弁(その3)(2023.02.19)
- 自動空気ブレーキと制御弁 ⑪ A動作弁(その2)(2023.02.05)
- 自動空気ブレーキと制御弁 ⑩ A動作弁(その1)(2023.01.31)
- 自動空気ブレーキと制御弁 ⑨ U自在弁(2023.01.04)
« 【録音】京福電鉄西院駅の踏切警報電鐘 | トップページ | 近所の神社に初詣に行った帰りに撮った、『初詣』ヘッドマーク掲出の阪急電車 »
コメント