自動空気ブレーキと制御弁 ⑥ 機関車用14番分配弁
「自動空気ブレーキと制御弁」 第6回は、主に電機機関車とディーゼル機関車に使用された「14番分配弁」について解説します。
14番分配弁
【概要・開発】
6番分配弁を、両運転台用に小改良した機関車用制御弁。
電気機関車の実用化により両運転台の機関車が登場したが、その場合どちらの運転台からも同じブレーキ効果を得られるよう、分配弁を車両の中央付近に設ける必要がある。それにより運転台のブレーキ弁から分配弁までの配管が長くなったため、ブレーキ指令に時間が掛かり、また十分なブレーキシリンダ圧力が得られないなどの問題が生じた。
その問題を補償するために開発されたのが№14EL空気ブレーキ装置で、それに使用される分配弁が14番分配弁(№14 Distributing valve)である。№6ET用のK-6ブレーキ弁を小改良したK-14Aブレーキ弁と組み合わせて使用される。
1913年発行のアメリカの解説書には掲載されていないため、それ以降、日本に自動空気ブレーキが導入された1922年までの間にWH社で開発されたと考えられる。日本では1991年製造のEF66 133号機まで新製された。
【構造】
基本的な構造は6番分配弁と同じであるが、ブレーキ管から釣合部の滑り弁を通り制御弁弛め管に通じる通路が設けられ、また作用シリンダ通路を作用シリンダ蓋に回したところが6番分配弁と異なる。このため作用シリンダ蓋に突起が生じており、6番分配弁との外観的な識別点となっている。
また両運転台のため、弛め管と作用シリンダ管をどちらのブレーキ弁に接続するかを切り替える「切替弁」が付属する。切替弁は、第2運転室(後位側)にある切替コックからの圧力空気の有無によって作動する ※14。
神戸電鉄701号(← ED2001)の14番分配弁。2010年10月3日、鈴蘭台工場一般公開時に撮影
【作用】
基本的な作用も6番分配弁と同じであるが、常用ブレーキ作用において以下の違いがある ※14。
- 作用シリンダ管が長く、その容積が大きいため、圧力空気室と作用空気室との容積比が当初設計(およそ5対1)と異なって来て、所定の作用シリンダ圧力(≒ブレーキシリンダ圧力)が得られない。そのため自動ブレーキ弁から、不足する空気量を作用シリンダ管に補給するようになっている。
- またブレーキ管圧力の一部を、釣合部滑り弁から度合弁通路を経て分配弁弛め管に流入させる。このように予め弛め管の圧力を高めておくのは、自動ブレーキ弁による常用ブレーキ後の弛め・保ち位置で作用シリンダ圧力が弛め管に流入して、ブレーキシリンダ圧力が低下するのを防ぐためである。
但しこれだけの改良では配管延長による性能低下を補償しきれなかったようで、宇田謙吉氏はご自身の体験として、『慣れれば同じとはいうものの、空走時間(運転士の操作からブレーキが効くまでのロス時間)が大きくなるのは恐ろしい。新しい車種に変わるとブレーキ性能は良くなるのが普通なのに、蒸機→電機だけは例外であった。』と書いておられる ※15。
【細分形式】
高速化に伴う増圧ブレーキの装備に伴って、作用部に増圧ピストンと逆止弁・電磁弁からなる増圧装置を取り付けた「14番E制御弁乙」がある ※14。
【適用ブレーキ方式・車種】
EL-14A:
国鉄電気機関車の標準的ブレーキ装置であった。また私鉄においても、中型以上の箱形機を中心に多数採用された。電気式ディーゼル機関車では空気圧縮機を電動式としたため、EL-14Aを採用した(量産機ではDF50)
細分形式としては、以下のようなものがある。
EL-14AS:
ブレーキ弁を脚台付きとし、ブレーキ管に非常ブレーキ伝達促進用のE吐出弁(急動弁)を取り付けるなど改良したもので、EF10(17号機以降)・EF56以降のほとんどの形式に採用された。EF81・EF66やED75700などでは、運転台環境改善のためブレーキ弁の脚台を廃止したが、形式はEL14ASのままであった。
なお重連対応形式では、更に元空気溜管の引き通し、釣合管の引き通し(単独ブレーキを次位機関車にも作用させる)、E1締切弁(重連機関車間で分離した場合、釣合管を遮断して次位機関車のブレーキ力喪失を防ぐ)などが追加されている。
EL-14AAS:
EL-14ASを2車体用に変更したもので、EH10に採用された。各車体に分配弁を持ち、元空気溜管と釣合管、空気圧縮機同期回路を引き通している。上記重連対応EL-14ASの元となった。
EL14-AR:
EL-14Aを回生ブレーキ対応にしたもので、EF11 1~3に採用。4号機とED61は、改良型のEL-14ARSとなった。なおEF16も回生ブレーキ付だが、電空連動を行わないEL-14ASであった。
DL-14A:
EL-14Aの空気圧縮機をエンジン駆動に変更したもの。国鉄の量産機ではDD51とDD54に採用された。DD51の半重連型では元空気溜管を、全重連型では更に釣合管を引き通している。
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