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2022年9月30日 (金)

自動空気ブレーキと制御弁 ⑤ 機関車用 6番分配弁

「自動空気ブレーキと制御弁」 第5回は、主に蒸気機関車に使用された「6番分配弁」について解説します。

※ 2022.10.3 適用ブレーキ方式・車種を加筆修正しました。

 

 

6番分配弁

【概要・開発】

WH社が機関車用に開発した三動弁で、日本語の「分配弁」は「Distributing Valve」の直訳である。1960年代頃から、日本では「6番制御弁」と呼ばれる。

直通空気ブレーキが実用化された当初、機関車には空気ブレーキが取り付けられていなかった。しかし列車の制動力を確保するため、すぐに炭水車に空気ブレーキが装備され、更に機関車本体にも空気ブレーキが付けられるようになった。

直通ブレーキから自動ブレーキに代わった後も、機関士が機関車のブレーキを独立に制御できるよう、直通ブレーキが併設されるようになった。これによりブレーキシステム全体の柔軟性と効率が大きく向上したが、必然的に部品点数が増え、構造が複雑になった。

そこで自動ブレーキと直通ブレーキの機能を併せ持ちつつも、機構を整理し部品点数を減らした新しい機関車用空気ブレーキ装置が、1905年に開発された。5番分配弁 (№5 Distributing Valve) を使用した №5ET 空気ブレーキ装置で、E は Engine (機関車)、T は Tender (炭水車) の略である。

№6 ET 空気ブレーキ装置は、№5 ET の経験を元に改良を行い、更に簡素化したもので、分配弁も改良された6番 (№6 Distributing Valve) になった。1913年発行の解説書に掲載されているので、1910年前後に開発されたと思われる ※1

日本には自動空気ブレーキの採用と共に導入され、蒸気機関車はもちろん、電気機関車やディーゼル機関車にも使用され、現在も動態保存の蒸気機関車で現役である。

 

【構造】

ピストンと滑り弁を使った弁を2組、上下に互い違いに積み重ねたような構造になっており、上が作用部、下が釣合部と呼ばれる。また作用空気室と圧力空気室を内蔵した二室空気溜と直結され、これは管取付座を兼ねている。圧力空気室は、一般の三動弁における補助空気溜に当たる。釣合部には安全弁が取り付けられている。

(外形図)

No6-distributing-valve-gaikei
 
※1

(構造図)

No6-distributing-valve-kouzou2  ※4
2. 作用部  3. 釣合部  4. 作用弁室蓋  6. 作用弁  7. 作用ピストン  8. 作用弁座  11. 奪取ピストン  15. 吐出弁  18. 釣合ピストン  20. 度合弁  21. 滑り弁  23. 度合弁バネ

No6-distributing-valve-cut-model
6番分配弁のカットモデル。2008年2月14日、梅小路蒸気機関車館

 

【作用】

自動ブレーキ

釣合部

三動弁の機能を持ち、ブレーキ管の増減圧に応じて以下の位置を取る。なお急ブレーキ作用(常用)、急動作用(非常)は持たず、単純三動弁に相当する。

込め位置
ブレーキ管を増圧したとき、釣合ピストンの作用で、ブレーキ管の圧力空気は込め溝を通って、圧力空気室をブレーキ管と同じ圧力になるまで込める。また作用シリンダと作用空気室は弛め管に通じるので、作用部は吐出位置を取り、ブレーキは弛む。

常用ブレーキ位置
ブレーキ管を減圧すると、釣合ピストンの作用で圧力空気室の圧力空気は作用シリンダと作用空気室に流入する。これにより作用部は供給位置を取り、ブレーキが掛かる。
なお作用空気室が設けられているのは、ブレーキシリンダに比べて作用シリンダの容積が小さいためで、そのままでは作用シリンダの圧力が不必要に高くなり、意図しない非常ブレーキが掛かるのを防ぐためである。

ブレーキ後重なり位置
ブレーキ管の減圧が終わり、圧力空気室の圧力がブレーキ管の圧力より少しでも低くなれば、釣合ピストンは圧力空気室から作用ピストン・作用空気室への通路を閉じ、作用シリンダの圧力が維持される。
これにより作用部も重なり位置を取り、ブレーキシリンダの圧力は維持される。

非常ブレーキ位置
ブレーキ管を急激に減圧すると、釣合ピストンは度合弁バネを圧縮して極端にまで移動し、圧力空気室の圧力空気を作用シリンダに送ると共に、作用空気室への通路を閉じる。このため作用シリンダの圧力は常用ブレーキよりも高くなり、作用部に全供給位置を取らせる。
なお安全弁により、作用シリンダの圧力を 5 kgf/c㎡に制限している。

作用部

釣合部が発生する作用シリンダ圧力と同じ圧力となるよう、元空気溜からブレーキシリンダに圧力空気を供給し、また排気する。すなわち中継弁であり、これによりブレーキシリンダの大きさや数に関わりなく、あらゆる形式の機関車に同一の分配弁を使用することができる。

吐出位置
作用シリンダに圧力空気がない時に取る位置で、作用ピストンはブレーキシリンダの圧力に押されて移動し、吐出口から排気されて、ブレーキが弛む。

緩供給位置
作用シリンダの圧力が上昇すると、作用ピストンは吐出口を塞ぐと共に供給口を開くため、元空気溜からの圧力空気がブレーキシリンダに供給されて、ブレーキが掛かる。

全供給位置
釣合部が非常ブレーキ位置を取ると、作用シリンダの圧力も高くなるため、作用ピストンは度合バネを圧縮して極端まで移動し、供給口を全開とする。このためブレーキシリンダへ迅速・多量に圧力空気を供給する。

重なり位置
作用シリンダとブレーキシリンダの圧力が同じになると、作用ピストンは度合バネにより押し戻され、供給口を閉じる。また吐出弁も閉じられているため、ブレーキシリンダ圧力は維持される。
なお漏れなどによりブレーキシリンダの圧力が低下した場合は、再び緩供給位置を取って圧力空気を補給する。

この弁は弛め重なり位置を持たないため、自動ブレーキ弁を運転位置に移すと釣合部は弛め位置、作用部は吐出位置を取り、そのままではブレーキが弛んでしまう。そのため自動ブレーキで階段弛めを行う場合は、自動ブレーキ弁による弛め管の開閉操作(運転位置は開、重なり・保ち・弛め位置は閉)により段階的にブレーキシリンダから排気することで行う。運転上は、弛め重なり位置を持つのと同様の操作ができたようだ。

またこの弁は急動作用を持たず、しかも機関車のブレーキ管は長く屈曲部も多いため、特に重連機関車の場合はブレーキ管の減圧が減衰して、列車の後部では非常ブレーキが掛からないという欠陥があった。
この事は第二次世界大戦の前から経験的に知られていたが、1956年に参宮線六軒駅で発生した列車衝突事故の原因調査で再確認された。これに対して電気機関車やディーゼル機関車では対策が行われたが、ET6ブレーキ装置ではそのままとされた ※12

単独ブレーキ

単独ブレーキ(直通ブレーキ機能)は、ブレーキ弁により直接ブレーキシリンダへ圧力空気を給排気するのではなく、作用シリンダへの給排気を行うことで、間接的にブレーキシリンダ圧力を制御する。

単独ブレーキにおいては、釣合部は特に影響されない。

単独ブレーキ位置
単独ブレーキ弁が緩制動または急制動の位置に置かれると、C-6減圧弁により 3.0 kgf/c㎡に調整された圧力空気が作用シリンダに直接送られる。また単独ブレーキ弁の回り弁により弛め管は閉じられ、作用シリンダ及び作用空気室の圧力空気は分配弁の排気口から排気されなくなる。すると作用シリンダの圧力により作用ピストンは供給位置を取り、ブレーキシリンダへ給気される。
単独ブレーキ弁を制動位置と重なり位置との間で移動させることで、段階的にブレーキシリンダ圧力を増し、最大 3.0 kgf/c㎡の圧力を得られる。

単独弛め位置
単独ブレーキ弁を弛め位置に移動すると、作用空気室と作用シリンダの圧力空気は単独ブレーキ弁を通じて排気され、作用ピストンは吐出位置を取る。分配弁の釣合ピストンが弛め位置にあり、自動ブレーキ弁が運転位置にあるとき、単独ブレーキ弁を運転位置にすることにより、機関車のブレーキを弛めることができる。
このとき作用シリンダおよび作用空気室の空気は分配弁の弛め管に流れ、さらに単独ブレーキ弁を通って弛め管に入り、自動ブレーキ弁を通って排気される。

自動ブレーキからの単独弛め
自動ブレーキによって掛けられた機関車のブレーキは、単独ブレーキ弁を弛め位置に移動することで弛めることができる。この時作用シリンダ内の圧力空気は、作用シリンダ管から単独ブレーキ弁を経て排気され、作用ピストンは吐出位置を取る。

 

【適用ブレーキ方式・車種】

ET-6:

鉄道省→国鉄では、№6 ET 空気ブレーキ装置を ET-6 と呼んだ。蒸機機関車の標準空気ブレーキ装置として、一部の小型入換用機関車を除くほとんどの形式で採用され、今も動態保存の蒸気機関車では現役で使用されている。

なお同和鉱業小坂鉄道のディーゼル機関車 DC1形・DD10形は、諸元表でブレーキ方式が ET-6 となっている ※8。蒸気機関車からの機器流用であろうか。

No6-distributing-valve-c515
三菱電機製の6番分配弁(D51 2)。作用部に三菱のマークと「6」の文字が陽刻されている。
2007年9月12日、交通科学博物館

No6-distributing-valve-d512
日本エヤーブレーキ製の6番分配弁(C51 5)。D51の物と、車体からの取付方法が異なる。
2007年10月24日、鉄道博物館

Et6-airbrake-system  ※4
1. 空気圧縮機  2. 空気圧縮機蒸気止弁  3. 空気圧縮機蒸気管  4. 空気圧縮機空気塵漉し  5. 空気圧力加減器  6. 空気圧力加減器高圧頭管  7. 空気圧力加減器低圧頭管  8. 操出管(冷やし管)  9. 第1元空気溜 10. 第1元空気溜排水コック  11. 元空気溜連結管(冷やし管)  12. 第2元空気溜  13. 元空気溜管  14. 元空気溜管締切コック  15. ブレーキ弁脚台  16. 自動ブレーキ弁  17. 単独ブレーキ弁  18. 空気圧力計  19. ブレーキ管  20. 分配弁  21. 分配弁作用シリンダ管  22. 分配弁弛め管  23. 分配弁供給コック  24. ブレーキシリンダ管  25. ブレーキシリンダ管締切コック  26. 渦巻ちり取り  27. 無火機関車装置  28. ブレーキシリンダ圧力計管  29. ブレーキ管圧力計管  30. 釣合空気溜圧力計管  31. 元空気溜圧力計管  32. 機関車ブレーキシリンダ  33. ブレーキ管肘コック  34. ブレーキ管ホース及び連結器

EL-14B:

№14 EL空気ブレーキ装置(EL-14)は、№6 ETの空気圧縮機を電動式に変更した機関車用空気ブレーキ装置。両運転台用のEL-14Aには後述の14番分配弁が使用されるが、片運転台用のEL-14Bには6番分配弁が使用されている ※13

ブレーキ弁が1台だけあって、2番切替弁と切替コックを設けている。これらは重連運転の際に、本務機関車の作用シリンダ管圧力を、釣合管を経て補助機関車の分配弁作用シリンダに作用させるために用いられる。

日本では片運転台の電気機関車自体が少ないため、採用例は横軽用のEC40、ED40、ED42(1~4)に限られる。またディーゼル機関車でも電動空気圧縮機を搭載したDD50は、EL-14BSを採用した。

EL-6A:

EF13形電気機関車は、本来両運転台用のEL-14Aを使用すべきところ、戦時設計のため6番分配弁を使い、2台のブレーキ弁を切り替える1番切替弁や切替コックも省略したEL-6Aが採用された ※11 (後の車体載せ換え工事の際に、EL14ASに改造)

DL-14B:

DL-14空気ブレーキ装置は、空気圧縮機をエンジン駆動とした機関車用空気ブレーキ装置。EL-14と同じく、片運転台用の DL-14Bには6番分配弁が使用されている。DD11、DD13、DD14、DD15が採用した。

 

 

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