« 【阪急】神戸線に新しい地上子が設置されました | トップページ | 自動空気ブレーキと制御弁 ② P三動弁 »

2022年9月11日 (日)

自動空気ブレーキと制御弁 ①総論

鉄道車両のブレーキ装置の基本として、最も長く、最も多く使われてきた自動空気ブレーキ。近年の電気指令式ブレーキへの移行に伴い、それを搭載している車両は減りつつあるものの、貨車を中心になお多数の車両で採用されており、またその基本的な考え方は、最新の電気指令式ブレーキ装置にも引き継がれています。

しかし鉄道趣味的には、ブレーキ装置そのものへの関心が比較的低いのが現実です。電車用空気ブレーキ装置、また貨車用のK三動弁については、白井 昭氏による優れた研究38 がありますが、近年の動きも含めて自動空気ブレーキの最重要部品ともいえる制御弁全般について俯瞰した資料は見かけません。

ついては日本で使用された制御弁を中心に、その概要・構造・機能・適用ブレーキ方式などをまとめてみようというのが、本稿の趣旨です。これより制御弁の形式ごとに章を分けて、連載していきます。不定期の掲載となりますが、ご興味のある方はどうかお付き合いください。

※ 参考文献は、最終回にまとめて表示する予定です。

 

総 論

【空気ブレーキの発明】 ※1

イギリスで鉄道が発明されて以来、列車を停止させるためのブレーキ装置は機関車のみが持ち、客貨車には何両かごとに手ブレーキを備えた車両を連結してブレーキ手が乗り込み、汽笛合図などによりブレーキを掛けると言う状況であった。そのため列車が長く重く、運転速度も高くなるにつれて、事故が多発するようになっていた。

そのような中、1866年にアメリカで貨物列車同士の衝突事故が発生したのをきっかけに、機関士が直接制御できるブレーキを列車の全車両に装備するというアイデアが、ジョージ・H・ウェスティングハウス氏により生み出された。

彼が最初に開発したのは直通空気ブレーキと呼ばれるシステムで、1869年に実用化された。これは機関車から配管やホースを通して、各車両のブレーキシリンダに直接圧力空気を送る方式である。

しかしこの方式は、列車に引き通した直通管を増圧することでブレーキ指令とするため、列車の分離や配管の破損が起こった場合に全くブレーキが効かなくなると言う致命的な欠陥がある。しかも列車後部へのブレーキの伝達に時間が掛かるなど多くの問題があった。

そこでウェスティングハウス氏はこの状況を解決するため、同じく列車内にブレーキ管を引き通すものの、あらかじめ各車両の空気溜(補助空気溜)に圧力空気を溜めておき、ブレーキ管の減圧を指令として補助空気溜の圧力空気をブレーキシリンダに送り込んでブレーキを掛けると言う逆転の発想を得て、それを実現する自動空気ブレーキ装置を1872年に発明した。

【制御弁とは】

自動空気ブレーキでは、

  • 弛め込め  ブレーキ管を増圧した時にはブレーキを弛め空気溜に圧力空気を込める、
  • ブレーキ(制動): ブレーキ管を減圧した時には空気溜の圧力空気をブレーキシリンダに圧力空気を送り込んでブレーキを掛ける
  • 重なり  ブレーキ管の減圧が完了した時、必要なブレーキシリンダ圧力を維持する

という、3つの基本的な作用がある。

これらの作用を編成内の各車両で司る弁装置が制御弁と総称されている物で、歴史的には三動弁Triple valve)・自在弁Universal valve)・制御弁(Control valve)・動作弁などと呼ばれてきた。

動作原理的には、補助空気溜圧力とブレーキシリンダ圧力を釣り合わせる二圧式と、ブレーキ管圧力・定圧空気溜圧力・ブレーキシリンダ圧力の三者を釣り合わせる三圧式に大きく分けられる。

【制御弁の開発と改良】※1

1872年に開発されたのは、上記の3つの作用だけを持つ単純三動弁(Plain triple valve)と言われる物であったが、特に非常ブレーキの伝達が遅く、ブレーキが動作した前部車両をまだブレーキが動作していない後部車両が突き上げて、大きな衝動と危険を生じさせるという問題があった。

そのため、非常ブレーキの際に三動弁自身がブレーキ管の局部減圧を行い、非常ブレーキの伝達速度を向上させる急動作用(Quick action)を持つ急動三動弁が1887年に発表された。

その後は用途に応じて、常用ブレーキの伝達を促進する急ブレーキ作用Quick service)、非常ブレーキ時に高いブレーキシリンダ圧力を得る非常高圧、空気溜への込め時間を短縮する急又込めなど種々の機能が追加され、また構造的にはピストンと滑弁を使用した物から、膜板を使って保守を容易にする方向へ改良が進められてきた。

【制御弁のメーカー】

世界的にはアメリカのWabtec社 (← ウェスティングハウス・エアブレーキ会社 ← ウェスティングハウス・トラクション・エアブレーキ会社)と、ドイツのクノール・ブレムゼKnorr-Bremse AG)が大きなシェアを占める。またアメリカのゼネラル・エレクトリック社(GE)もブレーキシステムを供給している。

日本ではNabtesco (← NABCO ← 日本エヤーブレーキ ← 神戸製鋼所)と三菱電機 (← 三菱重工業 ← 三菱造船所)が WABCOGEのブレーキシステムをライセンス生産し、また国産のシステムを開発してきた。

② P三動弁へ続く

 

« 【阪急】神戸線に新しい地上子が設置されました | トップページ | 自動空気ブレーキと制御弁 ② P三動弁 »

鉄道技術」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

« 【阪急】神戸線に新しい地上子が設置されました | トップページ | 自動空気ブレーキと制御弁 ② P三動弁 »