« 2022年8月 | トップページ | 2022年10月 »

2022年9月

2022年9月30日 (金)

自動空気ブレーキと制御弁 ⑤ 機関車用 6番分配弁

「自動空気ブレーキと制御弁」 第5回は、主に蒸気機関車に使用された「6番分配弁」について解説します。

※ 2022.10.3 適用ブレーキ方式・車種を加筆修正しました。

 

 

6番分配弁

【概要・開発】

WH社が機関車用に開発した三動弁で、日本語の「分配弁」は「Distributing Valve」の直訳である。1960年代頃から、日本では「6番制御弁」と呼ばれる。

直通空気ブレーキが実用化された当初、機関車には空気ブレーキが取り付けられていなかった。しかし列車の制動力を確保するため、すぐに炭水車に空気ブレーキが装備され、更に機関車本体にも空気ブレーキが付けられるようになった。

直通ブレーキから自動ブレーキに代わった後も、機関士が機関車のブレーキを独立に制御できるよう、直通ブレーキが併設されるようになった。これによりブレーキシステム全体の柔軟性と効率が大きく向上したが、必然的に部品点数が増え、構造が複雑になった。

そこで自動ブレーキと直通ブレーキの機能を併せ持ちつつも、機構を整理し部品点数を減らした新しい機関車用空気ブレーキ装置が、1905年に開発された。5番分配弁 (№5 Distributing Valve) を使用した №5ET 空気ブレーキ装置で、E は Engine (機関車)、T は Tender (炭水車) の略である。

№6 ET 空気ブレーキ装置は、№5 ET の経験を元に改良を行い、更に簡素化したもので、分配弁も改良された6番 (№6 Distributing Valve) になった。1913年発行の解説書に掲載されているので、1910年前後に開発されたと思われる ※1

日本には自動空気ブレーキの採用と共に導入され、蒸気機関車はもちろん、電気機関車やディーゼル機関車にも使用され、現在も動態保存の蒸気機関車で現役である。

 

【構造】

ピストンと滑り弁を使った弁を2組、上下に互い違いに積み重ねたような構造になっており、上が作用部、下が釣合部と呼ばれる。また作用空気室と圧力空気室を内蔵した二室空気溜と直結され、これは管取付座を兼ねている。圧力空気室は、一般の三動弁における補助空気溜に当たる。釣合部には安全弁が取り付けられている。

(外形図)

No6-distributing-valve-gaikei
 
※1

(構造図)

No6-distributing-valve-kouzou2  ※4
2. 作用部  3. 釣合部  4. 作用弁室蓋  6. 作用弁  7. 作用ピストン  8. 作用弁座  11. 奪取ピストン  15. 吐出弁  18. 釣合ピストン  20. 度合弁  21. 滑り弁  23. 度合弁バネ

No6-distributing-valve-cut-model
6番分配弁のカットモデル。2008年2月14日、梅小路蒸気機関車館

 

【作用】

自動ブレーキ

釣合部

三動弁の機能を持ち、ブレーキ管の増減圧に応じて以下の位置を取る。なお急ブレーキ作用(常用)、急動作用(非常)は持たず、単純三動弁に相当する。

込め位置
ブレーキ管を増圧したとき、釣合ピストンの作用で、ブレーキ管の圧力空気は込め溝を通って、圧力空気室をブレーキ管と同じ圧力になるまで込める。また作用シリンダと作用空気室は弛め管に通じるので、作用部は吐出位置を取り、ブレーキは弛む。

常用ブレーキ位置
ブレーキ管を減圧すると、釣合ピストンの作用で圧力空気室の圧力空気は作用シリンダと作用空気室に流入する。これにより作用部は供給位置を取り、ブレーキが掛かる。
なお作用空気室が設けられているのは、ブレーキシリンダに比べて作用シリンダの容積が小さいためで、そのままでは作用シリンダの圧力が不必要に高くなり、意図しない非常ブレーキが掛かるのを防ぐためである。

ブレーキ後重なり位置
ブレーキ管の減圧が終わり、圧力空気室の圧力がブレーキ管の圧力より少しでも低くなれば、釣合ピストンは圧力空気室から作用ピストン・作用空気室への通路を閉じ、作用シリンダの圧力が維持される。
これにより作用部も重なり位置を取り、ブレーキシリンダの圧力は維持される。

非常ブレーキ位置
ブレーキ管を急激に減圧すると、釣合ピストンは度合弁バネを圧縮して極端にまで移動し、圧力空気室の圧力空気を作用シリンダに送ると共に、作用空気室への通路を閉じる。このため作用シリンダの圧力は常用ブレーキよりも高くなり、作用部に全供給位置を取らせる。
なお安全弁により、作用シリンダの圧力を 5 kgf/c㎡に制限している。

作用部

釣合部が発生する作用シリンダ圧力と同じ圧力となるよう、元空気溜からブレーキシリンダに圧力空気を供給し、また排気する。すなわち中継弁であり、これによりブレーキシリンダの大きさや数に関わりなく、あらゆる形式の機関車に同一の分配弁を使用することができる。

吐出位置
作用シリンダに圧力空気がない時に取る位置で、作用ピストンはブレーキシリンダの圧力に押されて移動し、吐出口から排気されて、ブレーキが弛む。

緩供給位置
作用シリンダの圧力が上昇すると、作用ピストンは吐出口を塞ぐと共に供給口を開くため、元空気溜からの圧力空気がブレーキシリンダに供給されて、ブレーキが掛かる。

全供給位置
釣合部が非常ブレーキ位置を取ると、作用シリンダの圧力も高くなるため、作用ピストンは度合バネを圧縮して極端まで移動し、供給口を全開とする。このためブレーキシリンダへ迅速・多量に圧力空気を供給する。

重なり位置
作用シリンダとブレーキシリンダの圧力が同じになると、作用ピストンは度合バネにより押し戻され、供給口を閉じる。また吐出弁も閉じられているため、ブレーキシリンダ圧力は維持される。
なお漏れなどによりブレーキシリンダの圧力が低下した場合は、再び緩供給位置を取って圧力空気を補給する。

この弁は弛め重なり位置を持たないため、自動ブレーキ弁を運転位置に移すと釣合部は弛め位置、作用部は吐出位置を取り、そのままではブレーキが弛んでしまう。そのため自動ブレーキで階段弛めを行う場合は、自動ブレーキ弁による弛め管の開閉操作(運転位置は開、重なり・保ち・弛め位置は閉)により段階的にブレーキシリンダから排気することで行う。運転上は、弛め重なり位置を持つのと同様の操作ができたようだ。

またこの弁は急動作用を持たず、しかも機関車のブレーキ管は長く屈曲部も多いため、特に重連機関車の場合はブレーキ管の減圧が減衰して、列車の後部では非常ブレーキが掛からないという欠陥があった。
この事は第二次世界大戦の前から経験的に知られていたが、1956年に参宮線六軒駅で発生した列車衝突事故の原因調査で再確認された。これに対して電気機関車やディーゼル機関車では対策が行われたが、ET6ブレーキ装置ではそのままとされた ※12

単独ブレーキ

単独ブレーキ(直通ブレーキ機能)は、ブレーキ弁により直接ブレーキシリンダへ圧力空気を給排気するのではなく、作用シリンダへの給排気を行うことで、間接的にブレーキシリンダ圧力を制御する。

単独ブレーキにおいては、釣合部は特に影響されない。

単独ブレーキ位置
単独ブレーキ弁が緩制動または急制動の位置に置かれると、C-6減圧弁により 3.0 kgf/c㎡に調整された圧力空気が作用シリンダに直接送られる。また単独ブレーキ弁の回り弁により弛め管は閉じられ、作用シリンダ及び作用空気室の圧力空気は分配弁の排気口から排気されなくなる。すると作用シリンダの圧力により作用ピストンは供給位置を取り、ブレーキシリンダへ給気される。
単独ブレーキ弁を制動位置と重なり位置との間で移動させることで、段階的にブレーキシリンダ圧力を増し、最大 3.0 kgf/c㎡の圧力を得られる。

単独弛め位置
単独ブレーキ弁を弛め位置に移動すると、作用空気室と作用シリンダの圧力空気は単独ブレーキ弁を通じて排気され、作用ピストンは吐出位置を取る。分配弁の釣合ピストンが弛め位置にあり、自動ブレーキ弁が運転位置にあるとき、単独ブレーキ弁を運転位置にすることにより、機関車のブレーキを弛めることができる。
このとき作用シリンダおよび作用空気室の空気は分配弁の弛め管に流れ、さらに単独ブレーキ弁を通って弛め管に入り、自動ブレーキ弁を通って排気される。

自動ブレーキからの単独弛め
自動ブレーキによって掛けられた機関車のブレーキは、単独ブレーキ弁を弛め位置に移動することで弛めることができる。この時作用シリンダ内の圧力空気は、作用シリンダ管から単独ブレーキ弁を経て排気され、作用ピストンは吐出位置を取る。

 

【適用ブレーキ方式・車種】

ET-6:

鉄道省→国鉄では、№6 ET 空気ブレーキ装置を ET-6 と呼んだ。蒸機機関車の標準空気ブレーキ装置として、一部の小型入換用機関車を除くほとんどの形式で採用され、今も動態保存の蒸気機関車では現役で使用されている。

なお同和鉱業小坂鉄道のディーゼル機関車 DC1形・DD10形は、諸元表でブレーキ方式が ET-6 となっている ※8。蒸気機関車からの機器流用であろうか。

No6-distributing-valve-c515
三菱電機製の6番分配弁(D51 2)。作用部に三菱のマークと「6」の文字が陽刻されている。
2007年9月12日、交通科学博物館

No6-distributing-valve-d512
日本エヤーブレーキ製の6番分配弁(C51 5)。D51の物と、車体からの取付方法が異なる。
2007年10月24日、鉄道博物館

Et6-airbrake-system  ※4
1. 空気圧縮機  2. 空気圧縮機蒸気止弁  3. 空気圧縮機蒸気管  4. 空気圧縮機空気塵漉し  5. 空気圧力加減器  6. 空気圧力加減器高圧頭管  7. 空気圧力加減器低圧頭管  8. 操出管(冷やし管)  9. 第1元空気溜 10. 第1元空気溜排水コック  11. 元空気溜連結管(冷やし管)  12. 第2元空気溜  13. 元空気溜管  14. 元空気溜管締切コック  15. ブレーキ弁脚台  16. 自動ブレーキ弁  17. 単独ブレーキ弁  18. 空気圧力計  19. ブレーキ管  20. 分配弁  21. 分配弁作用シリンダ管  22. 分配弁弛め管  23. 分配弁供給コック  24. ブレーキシリンダ管  25. ブレーキシリンダ管締切コック  26. 渦巻ちり取り  27. 無火機関車装置  28. ブレーキシリンダ圧力計管  29. ブレーキ管圧力計管  30. 釣合空気溜圧力計管  31. 元空気溜圧力計管  32. 機関車ブレーキシリンダ  33. ブレーキ管肘コック  34. ブレーキ管ホース及び連結器

EL-14B:

№14 EL空気ブレーキ装置(EL-14)は、№6 ETの空気圧縮機を電動式に変更した機関車用空気ブレーキ装置。両運転台用のEL-14Aには後述の14番分配弁が使用されるが、片運転台用のEL-14Bには6番分配弁が使用されている ※13

ブレーキ弁が1台だけあって、2番切替弁と切替コックを設けている。これらは重連運転の際に、本務機関車の作用シリンダ管圧力を、釣合管を経て補助機関車の分配弁作用シリンダに作用させるために用いられる。

日本では片運転台の電気機関車自体が少ないため、採用例は横軽用のEC40、ED40、ED42(1~4)に限られる。またディーゼル機関車でも電動空気圧縮機を搭載したDD50は、EL-14BSを採用した。

EL-6A:

EF13形電気機関車は、本来両運転台用のEL-14Aを使用すべきところ、戦時設計のため6番分配弁を使い、2台のブレーキ弁を切り替える1番切替弁や切替コックも省略したEL-6Aが採用された ※11 (後の車体載せ換え工事の際に、EL14ASに改造)

DL-14B:

DL-14空気ブレーキ装置は、空気圧縮機をエンジン駆動とした機関車用空気ブレーキ装置。EL-14と同じく、片運転台用の DL-14Bには6番分配弁が使用されている。DD11、DD13、DD14、DD15が採用した。

 

 

2022年9月25日 (日)

【JR西日本】多機能鉄道重機「零式人機 Ver.2.0」のデモンストレーション(動画)

Reishikijinki

株式会社人機一体、日本信号株式会社、西日本旅客鉄道株式会社(JR西日本)が共同開発中の、多機能鉄道重機「零式人機 Ver.2.0」が京都鉄道博物館で展示中です。

9月25日に行われたデモンストレーションの様子を見てきましたので、動画をYouTubeで公開しました。

2022年9月22日 (木)

自動空気ブレーキと制御弁 ④ F三動弁

F三動弁

【概要・開発】

WH社が開発した、貨物用・入換用機関車の炭水車のための三動弁。
1903年より前に開発され、それまでのF-24単純三動弁やG-24三動弁に取って代わった ※1

【構造】

全体は縦長で、上部にピストン、下部に度合弁がある。

F1-triple-valve ※1

2. 本体  3. シリンダ蓋  4. 蓋ナット  5. ピストン  6. 滑り弁  7. 度合弁  8. 度合棒  9. 度合弁バネ  10. 度合弁棒ナット  11. シリンダ蓋ガスケット  12. ピストンリング  13. ボルトとナット  14. 滑り弁バネ

 

【種類】

6・8・10インチ ブレーキシリンダ用の F-1 と、12・14・16インチ ブレーキシリンダ用の F-2 がある。

【作用】

常用ブレーキ、非常ブレーキともブレーキ指令の伝達を促進する機能(急ブレーキ作用、急動作用)を持たないため、「単純三動弁」(Plain Triple Valve)と呼ばれる。機関車用で、自分がブレーキ指令を行う立場だからであろう。

  1. 弛め込め位置
    ブレーキ管からの圧力空気はピストンを押し上げ、弛め位置に移動させる。すると込め溝が開き、ブレーキ管からの圧力空気は補助空気溜に込められる。同時にブレーキシリンダと排気ポートが連絡され、ブレーキが弛む。

  2. 常用位置
    ブレーキ管を減圧するとピストンが下がり、補助空気溜からブレーキシリンダへ圧力空気が流入し、ブレーキが掛かる。

  3. 重なり位置
    ブレーキ管の圧力が補助空気溜の圧力よりわずかに高くなると、ピストンを再び上方に動かし、空気通路を全て閉じる。ブレーキ管を更に減圧すると、ブレーキをより強く掛けることができる。

  4. 非常位置
    ブレーキ管を急激に減圧すると、ピストンも急速に下がって度合弁を開く。これにより補助空気溜よりブレーキシリンダへの大きな通路が開き、急速に圧力空気が送られる。但し常用ブレーキに比べてブレーキシリンダへの給気が早くなるだけで、常用位置よりも高い圧力を得られるわけではない。

【適用ブレーキ方式・車種】

AMF:

簡易な自動空気ブレーキ装置として、日本では主に私鉄向けの小型電気機関車や電動貨車に採用された。資料的に確認できる車両では、名古屋鉄道(←愛知電気鉄道) デキ370・デキ400 ※10 がある。

 

<<記事トップ  <前記事(③ K三動弁)

2022年9月18日 (日)

自動空気ブレーキと制御弁 ③ K三動弁

<<記事トップ  <前記事(② P三動弁)

K三動弁

【概要・開発】

貨車用に広く使用された三動弁。現在日本ではK制御弁と呼ばれている。

WH社が1887年頃から供給したH三動弁(ボギー貨車50両編成用)を改良し、80両編成用として1905年より発売したもの ※3。日本ではかなり遅れて1921年5月に、ドイツ・クノール社製の自動空気ブレーキ装置との比較を含め、KCブレーキの実車性能試験を常磐線で実施した。1924年に導入を決定し、1928年頃から本格導入された ※6

国内では日本エヤーブレーキと三菱電機により1970年代までライセンス生産され、国鉄 → JRの一般貨車では1991年度新製分まで、この弁を標準として採用していた。

近年は、弁の摺り合わせなど製造・保守技術の伝承の問題や、保守部品の入手が困難になって来たことから、新製車ではEA-1制御弁を使用したCSD自動空気ブレーキ装置を採用、また既存車ではEF制御弁への取り替えなども行われている。

【構造】

ブレーキ管圧力と補助空気溜圧力の関係によってブレーキシリンダ圧力を制御する二圧式制御弁である。上部に主ピストンと滑弁、下部に非常ピストンと非常弁を持つ。重量は約30 kgf。

外観はP三動弁にそっくりだが、内部は度合弁の形状が異なるほか、減速バネと急動穴を持ち、P三動弁よりも高度な制御ができる。

K-triple-valve-kouzou ※4

1.弁体  2. 主ピストン  3. 滑弁  4. 滑弁バネ  5. 度合弁  6.非常ピストン  7. 非常弁座  8. 非常弁  9. 逆止弁  10. 逆止弁バネ箱  11.逆止弁  12. 塵漉し  13. 気筒蓋  14. 度合棒  15. 度合バネ  排水栓  17. 減速棒  18. 減速バネ  19. 制動筒管  20. 制動管  21.補助空気溜

K2-triple-valve-gaikan K-2三動弁(ホキ1827)

【種類】

給排気容量(空気通路の径)の違いによりK-1とK-2があるが、構造は全く同一である。組み合わせるブレーキシリンダの径によって、使い分けと排気絞り(後述)が定められている ※7

K-triple-valve-shibori

【作用】

ブレーキ管の増減圧に応じて以下の6つの作用を行う。

  1. 全弛め及び込め
    ブレーキ管内の圧力が上昇すると、ブレーキ管より補助空気溜へ圧力空気を供給し(込め)、同時にブレーキシリンダ内の圧力空気を大気中へ吐き出す事でブレーキを弛める。
    ブレーキ管と補助空気溜の圧力差が小さい時に取る位置で、主として列車の後方の三動弁で作用する。


  2. 減速弛め及び込め
    基本的な作用は全弛め及び込めと同じだが、ブレーキ管と補助空気溜の圧力差が比較的大きい時に取る位置で、ブレーキ管から補助空気溜への空気通路を絞って、自分の補助空気溜への給気を抑えて圧力空気を後続車に回す。
    列車前部の車両が込めすぎになるのを防ぎ、編成全体をなるべく均等に込めることを目的としている。


  3. 急制動
    ブレーキ管の減圧速度が比較的小さい時に取る位置で、補助空気溜の圧力空気をブレーキシリンダに供給してブレーキを掛ける。
    なお減圧の初期にブレーキ管の圧力空気をブレーキシリンダに流入させ、ブレーキ管を局部的に減圧することで、ブレーキ指令の伝播速度を向上させる(急ブレーキ作用)


  4. 全制動
    ブレーキ管の減圧速度が比較的大きい時に取る位置で、補助空気溜の圧力空気をブレーキシリンダに供給してブレーキを掛けるのは急制動と同じだが、急ブレーキ作用は行わない。


  5. 重なり
    補助空気溜の圧力空気がブレーキシリンダに供給され、補助空気溜圧力がブレーキシリンダ圧力よりわずかに低くなると、補助空気溜からブレーキシリンダへの空気通路が閉塞され、ブレーキシリンダ圧力は一定に保たれる。
    5.0 kgf/cm2のブレーキ管圧力を1.4 kgf/cm2減圧した時、ブレーキシリンダ圧力が3.6 kgf/cm2になるように、補助空気溜とブレーキシリンダの容積が設定されている。


  6. 非常制動
    ブレーキ管の減圧が急激な場合、補助空気溜の圧力により非常弁を開き、ブレーキ管の圧力空気をブレーキシリンダに流入させることで、大きな局部減圧を起こすと共に、ブレーキシリンダ圧力も若干高くなる。

編成の前後で弛めのタイミングが異なり衝動が発生するのを防止するためと、降坂時に又込めの時間を十分取れるよう、排気管に絞りを設けて、ブレーキシリンダからの排気を遅くしている。このためブレーキが全部弛んでしまうまでに約10秒が必要で、独特な排気音がする原因となっている。

構造上、弛め後に重なり位置を取ることができないため、ブレーキを段階的に弛める「階段弛め」はできない。すなわち弁がブレーキ管の増圧を感知すると、ブレーキは一度に全て弛んでしまう。これは運転士のブレーキ扱いに大きな制約を加えるが、逆にこの特徴をうまく利用して、上り勾配における圧縮引き出しなど高度な運転操作も行われていた。

また大井川鉄道井川線の車両では、ブレーキシリンダからの排気に電磁弁を併用することで、階段弛めを可能にしている ※9

【適用ブレーキ方式・車種】

KC

K三動弁・補助空気溜・ブレーキシリンダを一体に組み立てた(Combined)ユニット式の空気ブレーキ装置で、車両への艤装が容易なことから最も多く使われていた。

Kc-brake-system ※4

1.制動管  2. 制動支管  3. 締切コック  4. 渦巻塵取  5.K三動弁  6. 補助空気溜  7. 弛め弁  8. 制動筒  9.圧力計  10. 車掌弁  11. 肘コック  12. 空気ホース

KD

三動弁と補助空気溜を一体に組み立て、ブレーキシリンダを分離した(Detached)ブレーキ装置。寸法や機器配置の関係でKC型が使えない車両を中心に採用されており、特にタンク車・ホッパ車や、二軸車でも車体長が特に短い車両で多く見られた。

Kd-brake-system-hoki1680
ホキ800形ホキ1680 のKDブレーキ装置。補助空気溜(中央の円筒)の右側にK-2三動弁が取り付けられ、補助空気溜の左向こうに254㎜ブレーキシリンダが見える。赤く塗られているのは排気絞り。2011年3月24日 山陽本線小郡駅

Kd-brake-system-hoki1827
ホキ800形ホキ1827 のKD型ブレーキ装置。ブレーキシリンダだけでなく、補助空気溜も別置きとなっている。2007年11月25日 中央本線八王子駅

KE

高圧ガスタンク車など自重の大きい貨車用として、客車用E型ブレーキシリンダ(305㎜)にK-2制御弁を直接取り付け、補助空気溜を別置きとした方式。

KSD

貨車では、積車時にはブレーキ力が不足して制動距離が伸び、空車時には逆に過剰となって滑走する事が多いため、KD形に荷重検知器とO切替弁を追加し、ブレーキシリンダをD形差動シリンダに置き換えた積空ブレーキ装置。差動ブレーキシリンダの空気通路を切り替えることでピストンの有効面積を変化させ、積車時と空車時で、自動的にブレーキ力を2段階に切り替えることができる。

1964年に製作されたタキ1900形で初めて採用され、これ以降に新製された私有ボギー貨車用空気ブレーキ装置の標準となった。

Ksd-brake-system-o-switching-valve
タキ1900形 タキ71997 の台車に取り付けられた荷重検知器とO切替弁。2021年3月15日、関西本線 四日市駅

KRSD

車体構造上、前後の台車間にブレーキ引棒を渡すことが困難な新ホキ1000形・ホキ10000形に使用された積空ブレーキ装置。台車ごとにブレーキダイヤフラムを持つため、中継弁によりブレーキダイヤフラム圧力を直接変化させてブレーキ力を切り替える。

K三動弁、中継弁、荷重検知器、供給空気溜、2室空気溜、ブレーキダイヤフラムで構成される。

旅客車用:

運転速度の遅い小規模私鉄では、客車にもK三動弁が採用された例がある。三菱石炭鉱業大夕張鉄道の客車にはK-2三動弁が使われていたが、KCかKDかは不明※8。また別府鉄道のハフ5は、KCブレーキ装置を装備した状態で保存されている。

現役車両としては、大井川鐵道井川線の客車がK三動弁を使用している※9。これもKCかKDかは不明。東京ディズニーランドのウェスタンリバー鉄道の客車も、1990年代はK三動弁のような排気音がしていた記憶がある。

Befu-hafu5_20220918161501
別府鉄道 ハフ5 のKCブレーキ装置。三動弁は取り外されているようだ。2005年11月2日、播磨町郷土資料館。

 

<<記事トップ  <前記事(② P三動弁)  次記事(④ F三動弁)>

2022年9月11日 (日)

自動空気ブレーキと制御弁 ② P三動弁

<<記事トップ  <前記事(① 総論)  次記事(③ K三動弁)>

青字部分を追記修正しました(2022.9.17)

P三動弁

【概要・開発】

客車用の制御弁で、弛め込め・ブレーキ・重なりという制御弁の基本的な三つの機能を備えていることから、三動弁(英語では triple valve)と呼ばれる。

ウェスティングハウス・トラクション・エアブレーキ会社(以下WH社)が1887年頃(一説に1885年頃)に開発したとされており ※3、日本には自動空気ブレーキ導入最初期の1922年頃から1928年まで導入された※2

高速運転に適さず階段緩めもできないため、1929年からは国産のA動作弁が採用され、在来車も順次A動作弁に更新された。その後新たにGP・GPSブレーキ装置としてガソリン動車に採用。第二次世界大戦後も私鉄向けディーゼル動車に使われ、営業車両では1992年頃まで使用された。なお片上鉄道保存会には動態保存車両があり、今でも現役の三動弁と言える。



【構造】

ブレーキ管圧力と補助空気溜圧力の関係によってブレーキシリンダ圧力を制御する二圧式制御弁である。上部に主ピストンと滑弁、下部に非常ピストンと非常弁を持つ。外観的には、貨車用のK三動弁とそっくりである。

P-triple-valve ※4
1. 主ピストン   2. ピン形度合弁   3. 滑弁   4. 滑弁バネ   5. ピストン棒   6. 度合棒    7. 度合バネ   8. 込め溝   9. 詰座   10. 非常ピストン   11. 非常弁   12. 逆止弁   13. 逆止弁バネ   14. 栓

【種類】

組み合わせるブレーキシリンダの大きさにより P-1、P-2、P-2-Aなどがあった ※4

【作用】

ブレーキ管の増減圧に応じて以下の4つの作用を行う。

  1. 弛め及び込め
    ブレーキ管内の圧力が上昇すると、ブレーキ管より補助空気溜へ圧力空気を供給し(込め)、同時にブレーキシリンダ内の圧力空気を大気中へ吐き出す事でブレーキを緩める。

  2. 制動
    ブレーキ管が減圧されると、補助空気溜の圧力空気をブレーキシリンダに供給してブレーキを掛ける。
    K三動弁のような、常用ブレーキの伝達促進を行う「急ブレーキ作用」は持たない。逆に、ブレーキ管減圧の初期に、補助空気溜の圧力空気がブレーキ管に逆流し、ブレーキ管の減圧効果を減殺するという欠陥があった。

  3. 重なり
    ブレーキ管の減圧が終了し、弁内の滑弁室の圧力がブレーキ管より少し低くなると、補助空気溜からブレーキシリンダへの空気通路が閉塞され、ブレーキシリンダ圧力は一定に保たれる。

  4. 非常制動
    ブレーキ管の減圧が急激な場合、補助空気溜の圧力により非常弁を開き、ブレーキ管の圧力空気をブレーキシリンダに流入させる。それによりブレーキ管の局部減圧を起こし、ブレーキ指令の伝達を促進する(急動作用)

構造上、弛め後に重なり位置を取ることができないため、ブレーキを段階的に弛める階段弛めはできない。停車時の衝動防止は、排気管に絞りを入れて、徐々にブレーキを弛めることで対応していたようだ。

【適用ブレーキ方式・車種】

PF ※4

客車用の自動空気ブレーキ装置で、F形制動筒(ブレーキシリンダ)にP三動弁を取り付け、補助空気溜を別置きとした。他にM形制動筒と組み合わせたPMがあったが、当時の解説書の記述を見る限り、鉄道省で主に使用されたのはPF形だったようである。

Pf-brake-system ※4
1. 制動管   2. 制動支管   3. 締切コック   4. 渦巻塵取   5. P三動弁   6. 補助空気溜   7. 弛め弁   8. 制動筒   9. 排水栓

24400形(→ナハ22000形)17m級木造ボギー客車より採用され、オハ31などの17m級鋼製ボギー客車の1928年度製作分まで採用された ※2。その後順次、A動作弁を使ったAV形に更新されて行ったが、PFのままで残った車両は高速運転に適さず階段弛めもできないため、車体にの表記を行った。

一部は第二次世界大戦後まで残ったようである ※3

GP ※5

ガソリン動車用に設計された自動空気ブレーキ装置で、キハ40000形、及びキハ41000(→キハ04)の初期車(41000~41023・41025~41093)に使用された。昭和30年代に入っても茨城交通ケハ400形402、夕張鉄道キハ300形などがGPで落成している※8

PF形を基本にG-1制動弁、給気弁、C420空気圧縮機、NS16圧力加減器、元空気溜などが追加されている。

Gp-brake-system ※5
1. 双針空気圧力計   2. 車掌弁   3. G-1制動弁   4. 給気弁   5. 渦巻塵取   6. 空気ホース   7. AW-5笛   8. 塵漉し   9. 笛弁   10. 空気漉し   11. C420空気圧縮機   12. NS16圧力加減器   13. E-1安全弁   14. 元空気溜   15. 補助空気溜   16. 弛め弁   17. F制動筒   18. P-2三動弁   19. 肘コック

当時は客車の空気ブレーキ装置を、A動作弁を使ったAV形へ更新していた時期であるので、発生したPF形の部品を流用してGP形を設計製作した可能性がある。

GP-S※5

GP形は階段緩めができず、取扱いに熟練を要したため、直通空気ブレーキ装置を追加、併設したもの。

キハ41000形の後期車(41094~)とキハ42000形(→キハ07)に採用された。昭和30年代に入っても茨城交通ケハ401・ケハ601などに採用され、最も新しいのは1968年竣工の岩手開発鉄道202で、1992年の旅客輸送廃止まで使用された※8

制動弁をG-2-Aに変更し、直通空気管、複式二重逆止弁などが追加されている。

Gps-brake-system ※5
1. 直通空気管   2. 制動管   3. 空気圧縮機操出管   4. アンローダー弁管   5. 給気弁管   6. 制動筒圧力計空気管   7. 補助空気溜管   8・9. 複式二重逆止弁空気管   10・11. 逆転作用空気管   12. 元空気溜管   13. 給気弁管   14. 連絡管   15. 逆止弁   16. コック   17. 三方コック

Kiha0741
九州鉄道記念館で静態保存されている キハ07 41 (←キハ42055)
運転台を見る限り、GP-S形のままで廃車されたようだ。2011年3月24日撮影

<<記事トップ  <前記事(① 総論)  次記事(③ K三動弁)>

自動空気ブレーキと制御弁 ①総論

鉄道車両のブレーキ装置の基本として、最も長く、最も多く使われてきた自動空気ブレーキ。近年の電気指令式ブレーキへの移行に伴い、それを搭載している車両は減りつつあるものの、貨車を中心になお多数の車両で採用されており、またその基本的な考え方は、最新の電気指令式ブレーキ装置にも引き継がれています。

しかし鉄道趣味的には、ブレーキ装置そのものへの関心が比較的低いのが現実です。電車用空気ブレーキ装置、また貨車用のK三動弁については、白井 昭氏による優れた研究38 がありますが、近年の動きも含めて自動空気ブレーキの最重要部品ともいえる制御弁全般について俯瞰した資料は見かけません。

ついては日本で使用された制御弁を中心に、その概要・構造・機能・適用ブレーキ方式などをまとめてみようというのが、本稿の趣旨です。これより制御弁の形式ごとに章を分けて、連載していきます。不定期の掲載となりますが、ご興味のある方はどうかお付き合いください。

※ 参考文献は、最終回にまとめて表示する予定です。

 

総 論

【空気ブレーキの発明】 ※1

イギリスで鉄道が発明されて以来、列車を停止させるためのブレーキ装置は機関車のみが持ち、客貨車には何両かごとに手ブレーキを備えた車両を連結してブレーキ手が乗り込み、汽笛合図などによりブレーキを掛けると言う状況であった。そのため列車が長く重く、運転速度も高くなるにつれて、事故が多発するようになっていた。

そのような中、1866年にアメリカで貨物列車同士の衝突事故が発生したのをきっかけに、機関士が直接制御できるブレーキを列車の全車両に装備するというアイデアが、ジョージ・H・ウェスティングハウス氏により生み出された。

彼が最初に開発したのは直通空気ブレーキと呼ばれるシステムで、1869年に実用化された。これは機関車から配管やホースを通して、各車両のブレーキシリンダに直接圧力空気を送る方式である。

しかしこの方式は、列車に引き通した直通管を増圧することでブレーキ指令とするため、列車の分離や配管の破損が起こった場合に全くブレーキが効かなくなると言う致命的な欠陥がある。しかも列車後部へのブレーキの伝達に時間が掛かるなど多くの問題があった。

そこでウェスティングハウス氏はこの状況を解決するため、同じく列車内にブレーキ管を引き通すものの、あらかじめ各車両の空気溜(補助空気溜)に圧力空気を溜めておき、ブレーキ管の減圧を指令として補助空気溜の圧力空気をブレーキシリンダに送り込んでブレーキを掛けると言う逆転の発想を得て、それを実現する自動空気ブレーキ装置を1872年に発明した。

【制御弁とは】

自動空気ブレーキでは、

  • 弛め込め  ブレーキ管を増圧した時にはブレーキを弛め空気溜に圧力空気を込める、
  • ブレーキ(制動): ブレーキ管を減圧した時には空気溜の圧力空気をブレーキシリンダに圧力空気を送り込んでブレーキを掛ける
  • 重なり  ブレーキ管の減圧が完了した時、必要なブレーキシリンダ圧力を維持する

という、3つの基本的な作用がある。

これらの作用を編成内の各車両で司る弁装置が制御弁と総称されている物で、歴史的には三動弁Triple valve)・自在弁Universal valve)・制御弁(Control valve)・動作弁などと呼ばれてきた。

動作原理的には、補助空気溜圧力とブレーキシリンダ圧力を釣り合わせる二圧式と、ブレーキ管圧力・定圧空気溜圧力・ブレーキシリンダ圧力の三者を釣り合わせる三圧式に大きく分けられる。

【制御弁の開発と改良】※1

1872年に開発されたのは、上記の3つの作用だけを持つ単純三動弁(Plain triple valve)と言われる物であったが、特に非常ブレーキの伝達が遅く、ブレーキが動作した前部車両をまだブレーキが動作していない後部車両が突き上げて、大きな衝動と危険を生じさせるという問題があった。

そのため、非常ブレーキの際に三動弁自身がブレーキ管の局部減圧を行い、非常ブレーキの伝達速度を向上させる急動作用(Quick action)を持つ急動三動弁が1887年に発表された。

その後は用途に応じて、常用ブレーキの伝達を促進する急ブレーキ作用Quick service)、非常ブレーキ時に高いブレーキシリンダ圧力を得る非常高圧、空気溜への込め時間を短縮する急又込めなど種々の機能が追加され、また構造的にはピストンと滑弁を使用した物から、膜板を使って保守を容易にする方向へ改良が進められてきた。

【制御弁のメーカー】

世界的にはアメリカのWabtec社 (← ウェスティングハウス・エアブレーキ会社 ← ウェスティングハウス・トラクション・エアブレーキ会社)と、ドイツのクノール・ブレムゼKnorr-Bremse AG)が大きなシェアを占める。またアメリカのゼネラル・エレクトリック社(GE)もブレーキシステムを供給している。

日本ではNabtesco (← NABCO ← 日本エヤーブレーキ ← 神戸製鋼所)と三菱電機 (← 三菱重工業 ← 三菱造船所)が WABCOGEのブレーキシステムをライセンス生産し、また国産のシステムを開発してきた。

② P三動弁へ続く

 

2022年9月 5日 (月)

【阪急】神戸線に新しい地上子が設置されました

本日今津北線に乗車していて、駅のホーム部に新しい地上子が
設置されているのに気付きました。

西宮北口駅6号線の場合…

Hankyu_chijoushi-1
宝塚方

Hankyu_chijoushi-2
ここではPCまくらぎに固定。レールから腕を伸ばして取り付けられている
箇所もあります。

Hankyu_chijoushi-3
銘板の拡大。JRのATS-Pで使われているような、電文固定型の
無電源地上子です。

西宮北口駅今津北線ホームの場合は宝塚方だけにしかありませんが、
中間駅ではホームの入口と出口付近に、ほぼ列車の停止位置と
合わせるように設置されています。

西宮北口駅の神戸本線ホームを含め、どの駅でも、地上子は真っ白で
汚れがなく、ごく最近、ほぼ一斉に設置されたようですが、車両を見ると、
宝塚線の編成のような先頭車連結部の車上子は増設されていません。

ホーム入口側の地上子で列車に電文を送信し、出口側でそれを
消去するのだと思いますが、その用途はATS減速パターンの補助用
なのか、ホームドア設置に備えた停止位置精度向上用なのか、あるいは
扉の誤扱い防止用なのでしょうか?

 

 

« 2022年8月 | トップページ | 2022年10月 »